表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black Rumor  作者: 東
8/77

放課後の教室にて



「あの、君はこの間のーーー……」

「ちょ、ちょっ、あの‼」


千鶴がそう言いかけると、男子生徒は焦ったように手の平を千鶴に向け、続きに待ったをかけた。

訝しむ千鶴に、男子生徒は目を逸らして口ごもる。


「えーと……その……」

「ほらー席着けー」


その時ちょうどチャイムが鳴り、四月に赴任してきた若い担任が前の扉から入って来た。


「あ……」


千鶴はそれをチラリと見てから、もどかしげな男子生徒の顔を見る。

他の生徒が席に着くのに紛れ、男子生徒はさっと顔を寄せると、周りには聞こえないほどの小さな声で言った。



「……放課後、教室に」



***



授業が終わり、放課後の教室。

窓の外はすでに紅く染まり、遠くの方はもう紫色で覆われ始めている。

グラウンドでは野球部やサッカー部の声が響き、校舎からは吹奏楽部の楽器の音があちこちで聞こえてくる。


1年1組の教室には、二つの人影があった。

女子生徒と男子生徒。

放課後の教室、日が傾き始めた頃、差し込む夕陽、二人きりの男女。

それだけ想像すると、それはまさしくーーー告白だろう。


しかし、この二人にはそういったムードは皆無と言って良かった。いやむしろ、それとは反対の、何やら張り詰めた空気が漂っている。



「ええと……黒羽くん、だっけ」

黒羽(くろう)憂里(ゆうり)

「あ、千駄ヶ谷千鶴です」


今更自己紹介というのも変な話だが、千鶴は深々と頭を下げた。

そんな様子にクスリと笑い、「知ってるよ」と返す憂里。


やはり、彼だ。

髪の色や背格好は元より、この声、笑い方、雰囲気。

目の前にいる一見ただの高校生があの時の彼かと思うと、なんだか不思議な感じがした。


「それで、あの……朝の続きなのだけれど」


憂里の方から話を切り出してきた。


「あ、うん。あの、やっぱり黒羽君が、この前の……?」

「ええっと……まあ、うん。そう」

「そんな簡単に正体明かしちゃって大丈夫なの?」

「大丈夫ではない。全然ない。けど、千駄ヶ谷さんは誤魔化せない気がしたから」

「な、なるほど……?それであの、聞きたいことがいくつかあるんだけど」

「うん。どうぞ」


千鶴は心なしか背筋を伸ばすと、気になっていたことを尋ねた。


「……"殺さない殺人鬼"って、何?あなたはこの前の男に何をしたの?」



千鶴の質問に憂里は軽く頷くと、人差し指を立てた。



「千駄ヶ谷さんは、"噂"をどこまで知ってる?」

「え……えっと、知らない人にいきなり刃物で身体を刺されるんだけど、何故か被害者は怪我しないとかなんとか……」

「……そう。その刺す人ね、それが俺達」

「……達?」

「ん。正確なことは言えないけど、俺だけじゃない。ほんとはこういうの一般人にはナイショなんだけど、千駄ヶ谷さんにはバレちゃったし……」

「あの、それで男の人を刺したのに何故血が出なかったの?」


あの時の刃は銀色だった。深く深く突き刺したはずの鋭い刃は、血に染まることなく美しかった。

憂里はああ、と頷くと、



「あのナイフは、正確に言うと、ナイフの役割を果たさない」


そう言って突然、ブレザーのポケットに右手を滑り込ませた。

そうして取り出したのは、昨晩見た、あのナイフだった。


「……これは、"あの瞬間"しかナイフにならない。普段は使っても何も切れないんだ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ