記憶を探る
続けて投稿です。楓さん、頭を使うの巻。
「ではまず一旦整理しましょう」
真崎は仮眠を取る前に楓に手渡した資料が机の上に置いてあることを確認し、その中の束の一つを手に取った。
「今までの事件の経過をまとめたものです」
何ページかに綴られた文書を順番に楓らに手渡す。
そして自身も一部取り、ページをめくりながら道筋追って事件を振り返る。
「まず第一に、”影”の暴走による事件の概要です」
三人はその資料を見つめる。
「四月の中頃、千鶴ちゃんが暴漢に襲われた日が始まり。憂里君が助け、二人が出会った日ですね」
「そう」
「はい」
「憂里君を拉致した男が“見ていた”と言っていたのはこの時のことです」
「うん」
「そして次に、五月の初めに起こった”警察官負傷事件”。その次が“若者刃物事件”ーーー千鶴ちゃんと憂里君が張り込みをしている時に七尾さんが退治した日です」
真崎はまた書類を一枚めくる。
「さてここからは、蟲型による事件です」
一同は書類の文字を追っていく。
「最初は張り込みから数日後、千鶴ちゃんがうちの事務所から帰る際に襲われた時です。七尾さんによって退治されてます」
千鶴は頷いて、その時怪我をした膝をちらりと見やった。幸い、傷は残っていない。
「そしてその次が、千鶴ちゃんと七尾さんが繁華街にて襲われた時です。この時、男が“千鶴ちゃんを監視する仕事を与えた”という麻木が二人を尾行していました。カメラにも麻木が映っています」
そして真崎は書類から顔を上げ、机の上の別の資料を手に取った。そこには街全体の地図と、カメラの位置が示された赤い丸印がついている。
それからしかめ面で考え込む楓に視線を向けると、ハッキリと告げた。
「結論から言いますと、楓さんの読みは外れです。今述べた“影”による事件の全ての現場に、共通して現れる人物はいませんでした」
楓は、憂里を攫った男が“影”によって起きた事件全てに関わっていると考えた。
そのためまず千鶴と憂里が出会った場所にあるカメラに映っている人物をあぶり出し、それから他の事件現場周辺に設置された監視カメラを調べることで、同じ人物が共通して現場に現れているかどうかを確かめようとしていた。
しかし、真崎の必死の調査の結果、五件全ての事件現場に同じ人物は映っていなかったという。
あからさまに落胆した楓だったが、真崎は言葉を続ける。
「ですが、わかったことが一つ」
「?」
「千鶴ちゃんが最初に暴漢に襲われた日、そして蟲型に襲われた1件目には、同一と見られる人物が映っていました」
「本当か」
「ええ。千鶴ちゃんを暴漢が襲った時に映っているこの黒いコートの人物が、憂里君を拉致した男ということで間違いなさそうです。男が自ら、憂里君が千鶴ちゃんを助けた場面を見ていたと言っているわけですからね。
そしてそれと同じと思われる人物が、千鶴ちゃんが事務所から帰る際に蟲型に襲われた現場にも現れています。逆に、2件目の七尾さんと千鶴ちゃんが一緒に出掛けた際に蟲型に襲われたときに映っていないのは、代わりに麻木を監視役として尾行させていたからでしょう」
それらを聞いた楓は息を吐く。
「実際に居たのは二つの現場だけか…」
「ええ。しかし、二つの現場に同じような人物が映っていながらも、警察官負傷事件と若者刃物事件の二件には男が映っていなかった」
「なぜだ…?わからん…現場にいなかった…いなかった…」
楓は同じ言葉をブツブツと呟く。
やがて目を瞑って、真崎の集めた情報を頭の中で並べ、状況を整理し始めた。
しばらくの間沈黙が続いた。こういった時に話し掛けてはいけないことを真崎も充分に理解している。
憂里と千鶴も、黙ってそれを見ていた。
すると数分後、楓は突然顔を上げた。
「っまさか…」
「?」
そのまま固まって動かない彼を訝しむ三人をよそに、何も言わずに目を見開いている。
「楓さん?」
真崎がその顔を覗き込む。
やがて、ようやく真崎の方を見た楓は、掠れた声で絞り出すように呟いた。
「…もしかしたら」
次回、割と確信に近づくかも…




