始まりの場所に
またまた間が空いてしまってすいません。
今回は(も)会話してるだけ。
ソファに座りながら、憂里は手首をさする。うっすらと赤くなっているのは、先ほどまで椅子に縛られていたせいである。今はようやく痺れが取れてきた所で、憂里は軽く手首を振った。
「ともかく無事で良かった。他に怪我はないな?」
正面に座る楓がそう尋ねた。
その隣には真崎がいて、心配そうに憂里を見つめている。
居場所を知らせる突然のメールを見て駆け付けた二人は、一人椅子に縛られている憂里を見て驚き、そしてすぐにその紐を解いた。
憂里がいた場所は今では使われていない空き家であり、そこは楓の事務所からそう遠くない場所であった。
そしてそのまま事務所に戻って来たのである。
「怪我は何もしてない。逆にそれが不思議なんだけど」
「まあ詳しく話聞く前に、お前、千鶴には連絡したか?」
「あぁうん…メールは入れておいた。楓さんと合流したから問題ないって。途中で電話切れたのは電波が悪かったからって言っておいた」
「適当だなおい…そんなんで千鶴は納得すんのか?」
「だってしょうがないでしょ。他になかったんだから」
千鶴からの電話は、男が途中で切ってしまった。しかし、本当のことを千鶴に言うわけにはいかない。恐らく敵であろうあの男に連れさられたなどということを言ったら、千鶴は心配するに決まっている。それに加え、男は千鶴に興味を持っているのだ。彼女に危険が迫るのは避けたかった。
「それにしたってお前、電話の一本くらい入れとけよ。メールなんて誰でも打てるんだから」
楓のその言葉に、先ほど千鶴と電話をしてた時だって男の指示に従っていたのだから同じようなものじゃないかと思いつつ、はいはいと言いながら無事を知らせるために千鶴の番号を押した。
しばらくしてからコール音が響いた。憂里は携帯を耳にあてたまま、千鶴が電話に出るのを待つ。
しかし、千鶴は一向に電話に出ない。
「おかしいな…」
不思議に思い首を傾げたその時、耳元で鳴るコール音と少しずれて、辺りから同じような音が聞こえた。
楓と真崎がそれに気付き、音の聞こえてくる方向に目を向ける。
その瞬間電話はプツリと切れ、カラン、と扉の開いた音がした。
「ーーあ」
驚く憂里達の視線の先には、扉の前で携帯を右手に持った制服姿の千鶴が立っていた。
***
「千駄ヶ谷さん…?どうし」
憂里がそう言い終わらないうちに、千鶴は三人の座るソファへと無言で歩み寄った。
俯きがちに歩く千鶴はソファの前で立ち止まり、ゆっくりと床から視線を上げると、
「どうしたの、じゃない」
ニコリともせずにそう言った。
「ぅえっ」
「あー…」
憂里は驚いたような素っ頓狂な声を上げ、楓はそれを見て苦笑いと共に溜息をついた。
そして千鶴の顔を覗きこんだ憂里はピシリと身体を固くした。頬を冷や汗が流れる。
千鶴からは怒りのオーラが滲み出ており、普段は滅多に見せないその黒い雰囲気に憂里は気圧された。
「黒羽君」
「はっハイ」
「どうして教えてくれないの」
「へっ?」
「何かあったかくらい、私にだってわかる」
「あ…」
眉間に皺の寄った千鶴のその表情は、怒っているがどこか悲しげにも見える。
「巻き込みたくないって気持ちは嬉しいけど、もう私だって部外者じゃない」
「…ごめん」
「何もできないけど、もっと頼ってくれたって」
拳を握り締めた千鶴を見つめる。
千鶴を心配させないためにあえて何も伝えなかった憂里だが、彼女にとっては逆にそれが堪えるのだ。
今更ながらそのことに気付いた憂里は、ポツリとごめん、と呟いた。
そんな雰囲気に耐えられなくなってか、真崎と楓が声をかける。
「まっまあまあ、千鶴ちゃん、とにかく座ったらどうですか?」
「そっそうだぞ、お茶飲むか?真崎お茶!」
「すぐに準備しますね!」
あたふたとする二人に無言で軽く頷き、千鶴は憂里の隣にドサリと腰を下ろした。
その口はまだ若干への字になっている。
「あのー…ごめん。ごめんなさい」
憂里は千鶴に向き合って、再度ぺこりと頭を下げた。
ハラハラしながらそれを見守っていた楓は、憂里の謝罪に千鶴がコクリと頷くのを見て安堵の息を吐くと、真崎がお茶を運んでくるのを待ってから口を開いた。
「えーと、…よし。じゃあこっからは千鶴も含めて話を進める」
***
「で、お前は何か気付いたことはないのか」
千鶴を含めて、学校を出てから起こった出来事を楓と真崎にわかるように一通り説明し終わったところで、楓が憂里にそう尋ねた。
目隠しをされていて顔を見ていないことを除けば、声や性格など、憂里が唯一、男の情報を知っていることになる。
「年齢はどれくらいだ」
「声聞いた感じ、40…や、30代くらいかな。声質は低くもなく高くもなく、って感じ」
「そんだけじゃ無理だな。あとは?」
「気付いたこと、ね。…俺のこと拉致った割に、危害は加えられなかった。なんというか、目的がハッキリしないんだ。言ってること全然意味わかんなかったし。今回俺にこんな手を使ってきた割には…妙に紳士的というか」
憂里は眉間に皺を寄せながら、先程の状況を整理する。
あの時、疑問に思ったことが多々あった。男の行動は何か不自然なのだ。
「危害を加えるつもりはない、かーー。化学変化っていうのも気になるな」
憂里と千鶴が出会ったことによって起こる化学変化。世界がどう変わるか、それを見たいのだと男は言っていた。
「俺たち二人、ってところにやけに拘ってた気がする。結局何が言いたかったんだろう、あいつ」
一同は首を捻った。
男が何か明確な目的を示していれば、憂里たちもそれに対応出来る。しかし、それがわからないから行動の起こしようがないのだ。
すると憂里が、思い出したかのように手を打った。
「あ…そう、不自然に思ったことがあった」
「なんだ?」
「あいつ、俺達が出会ったのは偶然かって聞いた。で、そうだって答えたら“高校でもまた出会ったんだな”って言ったんだ。俺はてっきり、最初に出会ったのが高校なのかって聞かれたのかと思ってたんだ。でもあいつは高校では“再会”したってとらえた」
「ってことは」
楓はぽつりと呟いた。
「お前らが最初に出会った場面を知っている、ってことか…?」
憂里と千鶴が出会った場所。
あれが、全ての始まりだった。
四月の中旬、学校帰りの夜道で千鶴を襲った暴漢がいた。
大通りから外れた細い路地、そして廃屋。そこに現れた憂里が男を”刺した”。
それが二人の最初の出会い。
「あいつは、そこにいたってことか…?」
暴漢に襲われる千鶴を憂里が助け、それはただの偶然だと思われた出会いだったが、思いがけず高校で再会した。
実際、その事件より前からクラスは同じであったが、お互い話をしたことはなかったため、千鶴が憂里に助けられた事実が高校で二人を結びつけることになった。
男は確かに言っていた。
”二人が接する中で、悪にまみれたこの世界がどう変化するか、私は見てみたい”ーーーー
腕組みをしながら考え込んでいた楓が、一つ一つ確認するように言葉を洩らす。
「男が千鶴が襲われた場面にたまたま居合わせるなんておかしい。もしかしたら、直接的でなくとも、暴漢が千鶴を襲うに至った理由に奴自身が関係しているかもしれない」
あの時、千鶴を襲った暴漢からは”影”が滲み出ていた。人間の心が負の感情に侵されていなければそれは現れない。あの場面に居合わせたということは、“影”が暴走するのを知っていた、ということか。
「なんにせよ、これから注意するに越したことはないな。あまり一人で行動するなよ、お前ら」
無理やりまとめるように楓が言い、憂里と千鶴も頷いた。
なんだか書いてても混乱しているから読む方がもっと混乱するだろうな、と。
なんらかの動きを出したいです。
読んで下さりありがとうございました〜!




