男の真意
突然切れた電話に、憂里は驚き、視界が真っ暗なまま目の前にいるであろう男に向かって叫んだ。
「おい!何で切った⁉︎」
すると男は淡々と答える。
「関係のない話は必要ない」
「なんなんだよ…?大体、千駄ヶ谷さん本人に話があるんじゃないのか。さっき興味があるって…」
「そうだよ。でもそれだけじゃない」
「…なに?」
男は言った。
「私が知りたいのは、正確には君とのことだ」
「…はぁ?」
憂里はその言葉を聞いて内心首を捻った。
確か麻木もそのようなことを言っていたからだ。
「麻木…あいつも俺と千駄ヶ谷さんが一緒にいるのは邪魔だって…」
「あいつは私の言うことがわかっていない。勝手に解釈を捻じ曲げ、暴走した。邪魔だって?私はそんなことを思ってるんじゃない」
男は布越しに憂里の目を見つめ、やや嬉しそうにも聞こえるような口調で言った。
「君と彼女。二人の関係がこの世界に与える影響について、だ」
「は…?」
憂里はその言葉の意図がまったくわからず、ぽかんと口を開けた。
しかし男はそんな憂里を気にも止めず、言葉を続ける。
「一般人であるにも関わらず”見える”彼女の異端な点と、退治人である君。二人が接する中で、悪にまみれたこの世界がどう変化するか、私は見てみたい」
そう言い切った。
「化学変化だ。君たち二人によって何がどう変わるか、または変わらないか」
「どういうこと…」
そして憂里に近付き、その顔を覗き込むと、続けて尋ねた。
「君と、彼女。出会ったのは偶然か?」
憂里の視界は未だ暗闇に包まれていたが、男の射抜くような視線は全身で感じ取っていた。
憂里はゆっくりと口を開く。
「偶然…?そりゃそうだよ。偶然だ」
「それが、高校でもまた出会った」
「そうだよ」
「素晴らしいね、奇跡のようだ」
男は嬉しそうにそう言ったが、憂里は眉根を寄せ、口を噤む。
男は依然として憂里に質問を続ける。
「君が彼女といるのは何故だ?」
「何故?そんな、理由なんか…」
「たまたま出会い、それから行動を共にするようになった?
「まあ、そう…」
「世の中というのは面白いね。いや、面白くなった」
「…よくわからないけど、聞きたいことはそれだけ?」
男は少し考え込むような素振りを見せると、
「ああ、もう一つ」
そう言って人差し指を立てた。
「彼女の特異な”性質”を理解しているのはどれくらいいるんだ?」
「…なに?」
「君たち退治人の中にも知っている者はいるんだろう?」
憂里はこの質問に対してどう答えるかを少し悩み、結局具体的には言わずにおいた。
麻木が憂里たち退治人のことについてどこまで知っているかは分からないが、名前を出すのは避けたい。
「俺たちの周りだけ…そんなにいない」
「少しはいるのか」
「ほんの少し。彼女はあくまで一般市民だから」
「そう…そうか。なるほどね」
男は納得したように頷くと、コツコツと足音を鳴らして憂里から離れると、千鶴からの電話を切ったきり置きっ放しだった携帯を手にした。
画面にはたくさんのメールや着信が溜まっている。その相手は見なくてもわかっていた。
「あぁ…さっきのせいで皆が君を捜している」
「あんな不自然に切ったんだから当たり前だろ」
「まあ仕方ないな。面倒だけど」
男はそう言って溜息をつくと、勝手に画面を操作し始めた。
「ちょっと、何を…」
「ん?もうそろそろいいかなあと」
「は…何が…」
言葉の意味がわからずたじろぐ憂里に男は少し笑うと、見えないことを承知で液晶画面を向けた。
メールの相手は「鷹条楓」となっており、そこには文字の羅列があった。
「ここの場所を送っておいた。しばらくすれば迎えに来てくれるだろう。手と目は面倒だからその時に外して貰ってくれ」
いささか投げやりにそう言うと、携帯を憂里の膝の上に乗せた。
そして、
「それじゃあ私は行くよ。手荒な真似をしてすまなかった。色々と参考になったよ。彼女によろしく」
そう言った。
「ちょ、勝手に攫っておいて放置かよ!おい!逃げんな!」
憂里は足をバタバタさせて叫ぶが、男は既に扉に手をかけていた。
「しょうがないだろう。待っていればいずれ来るから。それじゃあね」
そして扉が閉まる音が部屋の中に響いた。
一人取り残された憂里は首を傾げた。
「なんだったんだ…?敵…なのは明らかだよな…くそっ最後までよくわからないやつだな」
そして静かに呟く。
「てかはやく来いよ楓さん…」
それから憂里の放置された部屋に、息急き切った楓と真崎が現れるのにはたった数分しかかからなかった。
そこを出てからわかったのは、楓の事務所からそう遠くない場所であったということだった。
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