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Black Rumor  作者: 東
55/77

私に出来ること

この章やっと一区切り。


「なんかーー声が」


地上では、楓と憂里、千鶴の三人が話をしていた。憂里は麻木に呼び出された経緯を話し、千鶴は教室に潜り込むまでを説明する。

その差中、千鶴はふと言葉を切り、自分を呼ぶ声に気づいて顔を上げた。


「ん?」


それと同時に憂里も空を見上げ、つられて楓も同じようにした。

その瞬間に目に入ったのは、上から落ちてくる二つの人影。

それは急速に近付いてくる。


「え」

「…え?」


風を切る音がして、二人の視界の端で栗色の髪が舞った。


「ーーーよいしょっと!」


湿った土の上に綺麗に着地をしたのは、風圧のせいで若干髪が乱れた伊万里だった。


「うわ」

「伊万里ちゃん!!」


派手な登場の仕方に顔を引き攣らせる憂里と、嬉しそうな表情で叫ぶ千鶴。二人の反応は正反対だ。


「よかった、無事で」

「伊万里ちゃんこそ」

「いやぁ、私は師匠に屋上見張ってるように言われただけだから」

「伊万里ちゃんが気付いてくれてよかった。それで京馬さんも来てくれたんだし」

「うん、千鶴ちゃんが忘れ物したって言った時に気付いた。憂里に何か起きたかもって」

「俺自身がギリギリまで気付いてなかったわけだけれども」

「まあまあ。鷹条さんからも師匠に連絡行ってたみたい。千鶴ちゃんが鷹条さんに連絡してくれたおかげだよ」

「そんな…でも本当にありがとう」



嬉々として騒ぐ三人をよそに、少し離れた場所では大人組が静かに会話をしていた。

溜息を吐きながら刀でトントンと肩を叩く京馬を、楓は笑顔で出迎えた。



「やあ、おかえり行ちゃん」

「吹っ飛ばすぞ」

「なんだよ労ってやってんのに」

「お前の労いは俺に疲労を与えるだけだ」

「ひっどいなぁ」


京馬は聞こえないと言う風に首をぐるぐると回すと、ついでに腰を伸ばすと楓に向き直り、そして詰め寄った。


「つーかてめぇ、人使いが荒すぎはしねぇか?ん?」


それを楓は手のひらを胸の前にやり京馬に向けてどうどう、と宥めた。


「ご、ごめんって。仕方ないでしょ?すぐ動けるのはお前くらいだし」

「なんでてめぇは働かないんだよ」

「だって俺は千鶴と連絡取り続けないといけなかったしぃ…」

「ふざけんな、いっつもこき使いやがって」

「だからごめんってば。今度奢るし。ね?」

「ね?じゃねぇよ馬鹿」


そんな会話を、感動の再会を終えた高校生三人ーー中でも憂里と伊万里は先ほどのハイテンションはどこへ行ったのか、冷めた目で楓と京馬を見ていた。



***



「あぁ千鶴ちゃん、憂里君も無事でよかった!お疲れ様です」


全員で話をするために場所を変えて楓の事務所に行くと、扉を開けてすぐ出迎えた真崎が嬉しそうにそう言った。

楓が千鶴から連絡を受けてすぐにそれを京馬に伝え、そしてそのまま事務所を出ると言った楓を見送った真崎は、皆が帰ってくるのを一人待っていたのだ。


ホッとしたような表情の真崎に憂里は珍しくわずかに微笑んで、


「ただいま」


と応え、千鶴はぺこりと頭を下げた。

真崎はただ「おかえりなさい」と言って笑った。



真崎の出してくれたお茶を前に、テーブルを取り囲むようにして座る面々。全員が神妙な面持ちである。


道中、京馬は全員に説明をしていた。

京馬が気絶させた麻木は三代が連行したこと、色々と聞き出すために“影”を斬ることはせず、この後は「本部」が目の覚めた麻木に対して尋問及び処罰を下すということ。

麻木を引き取るためだけに呼んだ三代は、軽々と麻木の身体を担ぐと闇の中へ消えた。

今のところ麻木の背後にいる人物は不明であり、それはこれから本部が調べるだろう。


「麻木ってやつが単身で動いてたわけではないってことは確実だな」


ソファに座った京馬はいつもの仏頂面でそう言った。


「その理由は?」


楓が尋ねる。


「奴は何か知らんがーー“あの人に”と言っていた。それに俺が刀を向けたとき反撃という反撃はしてこなかったしな。突っ込んできたのにはさすがに驚いたが」


そう言うと憂里もそれに賛同した。


「俺も。せんせーー、あの人がナイフ出してきたからこっちも応戦したけど、なんか特別な力持ってたわけでもないらしいし。俺たちが外階段から飛び降りた時も特に追ってこなかった」


京馬は静かに言う。



「きっとあいつは“生身の人間”だ」



沈黙。



「“俺達”はたかが(・・・)四階から飛び降りたくらいじゃ怪我もしねぇ。だがあいつはそれをしなかった。そりゃ普通の人間がそれをやったら確実にどこかしら怪我するからな。あぁ、死ぬかもしれないのか」


なんでもないことのようにさらりと言った京馬の言葉に、“生身の人間”である千鶴は自分が単身で飛び降りるところを想像し、身震いすると共に納得した。


「問題は奴の後ろに誰がいるか、だな」


黙って京馬の話を聞いていた楓が口を開いた。


「あいつが伊万里や千鶴のことを調べてたのは確かだ。しかしーー、何の力も持たないあいつは何のためにそんなことをーー、いや、誰のために、か」


一度は口を閉じて考えるが、それは今すぐにわかるようなことでは到底無い。


千鶴はそれぞれの話を聞きながら考えていた。

今回の襲撃、「麻木先生」、そして背後で操る人物。



わからないことだらけだ。それは今に始まったことではない。

ただ、あまりにも多くのことが起こりすぎている。そしてその出来事の中心に自分がいると言っても過言ではないのだ。


ーー真実。


千鶴は心の中でそう呟く。


本当の、敵。

今はまだ知れそうにもないが、やがてわかる時が来るだろうか。そしてそれは千鶴にとって何をもたらすのか。


ーーとにかく。

とにかく、私に出来ることをしよう。


一人静かに決心して、千鶴は両の拳を強く握った。

傍らにいてくれる人たちを守れるように。



いつも読んでくださりありがとうございます。ブクマ、ポイント評価を糧に頑張ります。

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