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Black Rumor  作者: 東
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逃げるが勝ち

続けて更新です。学校の階段って灰色のイメージしかない。

風が吹く。

夜の艶やかに湿った夜の風は僅かに夏の気配を含んでいる。


千鶴は風に煽られ顔にかかる髪を手で押さえた。

辺りは暗い。暗くて、どす黒い。

目の前には憂里の背中があった。

視界を遮るようにして立つ少年の背中を見つめながら、千鶴は今日、この瞬間までに起きたことを頭の中で整理していた。


風がいっそう強く吹いた。


千鶴に背を向けたままの憂里が、ゆっくりと口を開く。


「一階の扉は何らかの理由で開かない。誰もいないように装って、外から施錠させたか…。俺たちを閉じ込めてどうするつもりかなんて聞きたくありませんけど。でも、出口は一階にあるとは限らないし」



この場所は以前、伊万里が転入して来た際に憂里が楓に電話をした場所だ。普段は誰も使用しない薄暗くて湿った場所。

出口に繋がる扉は開かないと悟った憂里は、唯一、出入口としては使われていないが外に繋がるこの階段を選んだ。ここの扉には、もともと鍵がかけられていないことも知っていた。


それは麻木も想定外だったようだ。

しかし麻木はクスリと笑うとわざとらしく両手を広げながら言う。その右の手には鈍色に光るナイフ。それは憂里のナイフよりも一回り大きい。そして鋭い。


「この狭い場所で何が出来る?丸腰の女の子を連れて。どこへ行っても同じだ」

「やだな。このくらいの場所だったらあなたの腹に突き立てることくらい簡単ですよ」


憂里は物騒な言葉を平然と、薄く笑いながらポケットのナイフに触れて言った。

そして続ける。


「でもそれは今じゃない」

「なんだ?」

「本当だったら今すぐにでもあなたの後ろの”影”を消滅させることだって出来る。だけどまだ、あなたには聞かなければならないことがたくさんあるから」



敵側の情報はなるべく引き出したい。

だが、今の向こうはナイフという武器を持っている。

状況的に不利なのは憂里と千鶴の方だった。




***



ーーとにかく今することは。

憂里はちらりと後ろに目をやる。


一方の麻木は、手にナイフを持ったまま一歩憂里達に近寄った。それに伴い一歩後退する二人。

外階段の踊り場。

そこは決して広くない。

麻木に対して反撃出来ない憂里にとって、この場所はいささか不利でもあったが、それでもここしかなかった。外に繋がる出口。そして、それからに繋がる道。



緑の木々が、三階と四階の間、手すりの上、灰色のコンクリートから頭を出している。銀杏の木。

憂里は今度は左側をちらりと見た。

麻木が自分に、そして千鶴に危害を加えるつもりだということは、その手にあるナイフと背後の”影”の濃さから容易に想像できた。

殺すまではいかないにしろ、十分な傷を負わせるつもりだ。今麻木は憂里達を襲おうとしている。それだけは確かだ。



麻木がまた一歩踏み出した。

”影”がぶわりと増殖した。

憂里は薄く息を吐き出す。

目の前の麻木の手、それから足を見る。


そして、麻木が動くよりも先に、素早く背後の千鶴の腕を取った。

驚きの表情を浮かべ憂里を見上げた千鶴。

ナイフを突き出した麻木が一気に距離をつめた。


千鶴は小さく息を飲む。

瞬間、両足がコンクリートの地面から離れた。


「え」


地面が、目線が高い。

すぐ隣に憂里の顔があった。


「…な」


千鶴からは麻木の頭が見えている。


麻木は憂里達を見上げていた。

わずかに高い位置。

踊り場の手すりの僅かな幅、そこに膝を着いている千鶴と、その体を支えるようにして隣にいる憂里。



麻木がナイフを手に距離を詰めた瞬間、憂里は千鶴を抱えて地面を蹴っていた。

そして左側にある階段の手すりに着地した。その高さは今麻木が立っている位置より上、それゆえ麻木は二人を見上げる形になる。


「…おい」


麻木はわずかに焦りを滲ませている。

千鶴はそれが何故なのか一瞬悩んだが、すぐに合点がいった。

そして隣の憂里をゆっくりと、恐る恐る見遣る。


憂里が立ち上がった。

手すりの幅は30cmも無い。

不意に千鶴の肩をガシリと掴んだ。


「え」


強く吹いた風が憂里の前髪を揺らした。

ちょうどその時、雲の切れ間から月が見えた。


麻木は、背後に現れた月が憂里を照らすのを見ていた。

煌々とした金色の光と黒い闇のコントラストは、一瞬麻木の思考を奪った。

ハッとして、我に返る。

「黒羽、待…」

そして待て、と言おうと口を開いたが、


憂里は何も言わずに微笑んだ。


その体が真後ろに傾いた。

そしてすぐに視界から消えた。千鶴もろとも。

麻木の目には最後、風と重量で揺れる黒髪の先が見えた。


「ックソ‼︎」


悪態をつき、すぐさま手すりに駆け寄る麻木。


地面へと急降下する二つの体。

憂里は、今度は見下ろす形になった麻木に向かってヒラリと手を振った。



二つのシルエットは暗闇に紛れ、見えなくなった。



そして次の瞬間、唐突に、空間を切り裂くような、耳を塞ぎたくなる音が辺りに響いた。



この人たちはよく飛び降りますねー。

千鶴ちゃんは酔わないのかな。←

読んで下さりありがとうございました!

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