知らないことをたくさん
うだうだ喋る回。
桂木が帰ってから数分後、部屋から出てきた三人は、口々に真崎に礼を言った。
それから憂里は仏頂面で楓へと詰め寄ったが、文句を言おうと口を開きかけたその時、事務所の扉が勢い良く音を立てて開いた。
「あーーーっやっと着いた!遠かった!」
「んな距離ねえだろうが」
その声を聞いた千鶴は、泣きそうになりながら叫んだ。
「ーーー伊万里ちゃん!!」
「あっやっほー千鶴ちゃん!無事?怪我してない?」
千鶴は扉に駆け寄り、入ってきた伊万里と手を合わせた。
後ろから続いてやってきた京馬だったが、
「あ?おい。なんでテメェまでいるんだよ」
いつも以上に眉間に皺を寄せて視線を向けたのは、楓の隣に寄りかかる三代である。
ポカンとした表情で京馬の視線を受け止めた三代は、それが自分に対して向けられたものであることに数秒後に気付き、あぁと声をあげた。
「いやぁ久しぶりだねぇ、ゆっきー」
「ゆっ……⁉」
「鷹条といいテメェといい、人の名前も覚えられねぇのか?あ?」
朗らかに笑う三代を横目で睨み付ける京馬。普通の人間だったら縮み上がり動けなくなるほど恐ろしい形相だが、当の三代はそれを気にする素振りも見せない。
一方、「ゆっきー」というあだ名を聞いた瞬間、驚きと共に吹き出しそうになり、それを必死で堪える人物も数人。
三代はあははと笑いながら懲りずに話を進める。
「最後に会ったのいつだっけ?何年も前だよねぇ、懐かしいわ〜」
「俺は別にお前と会わなくても生きていける。むしろ会いたくなかった。……それはこいつも一緒だが」
「ひどっ。楓もゆっきーも変わらないよね、悪い意味で」
「ねえ。昔話をしに来たわけじゃないでしょ」
三人の話に、憂里が仏頂面で口を挟んだ。
その言葉に伊万里も大きく頷いている。
そうだった、と我に帰った楓は、一度咳払いをする。気を取り直して、背筋を伸ばした。
「悪い。するべき話はたくさんあるんだった」
「てーかさ、俺、まだ全然事態を把握出来てないんですけどー」
三代は腰掛けていたソファからぴょこんと降りると、困った顔で手の平を見せるようにして両手を上げた。
「あーそうだったか。おい三代。紹介してやる。こいつが黒羽憂里、で、千駄ヶ谷千鶴。そっちのが七尾伊万里。七尾は京馬の弟子な」
「よろしくお願いしまーす」
「で、千鶴な。まあ千鶴はあれだ、一般人。ちょっと特殊な一般人」
「えと……どうも」
特殊という言葉を二回使って、楓は千鶴を説明する。それ以外に何と言ったらいいか、正確なことがわからなかったというのもある。
千鶴はおずおずと三代にお辞儀をした。
「で、お前ら。こいつは三代夕。俺と京馬の同僚というか何と言うか、まあそんな感じ。しばらく会ってなかったけどな。一応本部の人間」
「よろしく!一応は余計だよ楓。これでも幹部候補です」
「そこが謎なんだよな」
「同意」
「だから酷い!」
三人のり取りを眺めつつ、何故本部の人間がこんなところにいるのだろう、と憂里は考えていた。
京馬だって本部の人間だ。しかし京馬は派遣されてきたという点で、本部の中でも「そういった役職」についている。だからここの地域に来たのだ。
しかし三代は違う。幹部候補、と言っていたが、それほどの力を持つ人間が、既に京馬がいるのにも関わらず来るのだろうか。ただでさえ人手不足なのに、一つの地域にそう何人も必要なわけではないだろう。
しばらくの間黙り込んで考えていたが、それは一退治人の憂里にわかることではないと判断した。
すると図ったように、楓が口を開いた。
「さて。京馬に七尾、お前ら大丈夫だった?」
「大丈夫も何も。現にここにいるんだからそういうことだろ」
楓の問いかけにボソリと答える京馬。伊万里は身を乗り出す勢いで騒ぐ。
「まあ師匠が来なくても私一人で何とかなりましたけどね!!」
「馬鹿が。俺が行った時点でヘロヘロだったじゃねぇか」
「……そんなことないですぅー」
目を逸らしながら、唇を尖らせる伊万里。不服そうな表情だが、京馬の言葉は伊万里にとって図星であった。
「結局何があった?そこんとこ詳しく」
楓はソファに寄りかかると、京馬と伊万里に話をするよう促した。
あからさまに面倒くさそうな顔をした京馬だが、仕方無しにといった様子でやれやれと首を振った。
そして言った。
「……しょうがねぇな。伊万里、説明」
「はぁ!?私かよ!」
完全に京馬が語る雰囲気になっていたにも関わらず、それをあっさりと放棄した。
伊万里はそう叫んでから呆れた顔をしたが、溜息の後に渋々口を開いた。
「えーっと……どこから話そう……」
またいつもと同じような展開になってしまい反省。
ちょくちょく出てくる「本部」とは、憂里や楓など、各地に存在する"退治人"全体を統轄する組織です。本部と言っても一概には言えず、その中でも様々な役職があるわけです。ちなみに京馬は各地に派遣されることもある結構めんどくさい部署。




