ある意味危険な彼
今回は無駄に長くなりました。
またまた喋ってるだけ。
どうぞ!
カラン、と扉が開いた音が、ひと気の無い静かな部屋の中に響いた。
その音と同時にソファから立ち上がるのは、いつものごとくマグカップを手にした楓。
「やあ。楓君久しぶり」
同じように右手を上げてニコリと笑うのは、丈が長めのカーキ色のコートを着たラフな格好の男。
一見して少年のようなあどけない顔立ちの小柄なこの男、名前は桂木。
「……何ですか?そのコート」
「いいでしょ、これ。踊る大捜査○みたいな感じで。某青島巡査だよ、へへ」
「ほとんど言っちゃってんじゃねーか。てかあんたは警部でしょうが」
「レインボーブリッジでも封鎖して来ようかな」
「そんなことより仕事してください」
二人しかいない事務所内で、二人のグダグダなやりとりは静かな部屋に響く。
しかし、それを物影から覗いている人物もまた二人、存在していた。
「ねぇ千鶴ちゃんあれ誰?どこの高校生?」
「……恐ろしいことにあの人三十路越えてるらしいです」
「え、まじで?人間って怖ぇー」
事務所の入り口から見て左、その奥にある一つの部屋の中には、扉を極々薄く開け、その狭い隙間からこっそりと様子を伺う千鶴と三代の姿。
ちなみにそこの部屋は普段、真崎が使用しているものである。
僅か数分前、三代の発言によりこれ以上無いほどに慌ただしくなった事務所。
楓は桂木の姿が見えた瞬間、千鶴と三代の二人をこの場にこのまま同席させるかどうかで悩んだ。結局それはまずいだろうという結論に達し、奥の部屋に隠れることを指示した。
そして二人を隠してから、何事も無かったかのように一人ソファに座った。
その間、約二分。
そして二分後、扉が開く音と共に、青島ルックの桂木が姿を表したのだ。
「さて。今日は何の用です?相変わらず暇なんですね」
「失敬な。正当な"聴き込み"だよ」
「そんで何故俺のとこに来るんですか。毎回毎回、愛すら感じるんすけど」
「あっはっは。……時に楓君。毎回毎回、とは?何が起こったときに僕は君のところに来る?」
「すいません、何を聞かれているのかサッパリ」
楓は桂木の言葉に、困った顔で両手を上げた。降参、といった風に。
桂木は朗らかに笑うと、
「まあそれはそれとして。今日、真崎君いないの?静かだと思ったら憂里君も。何故?」
辺りをキョロキョロと見回して、不思議そうな顔をする。楓は一瞬ギクリとしたが、勿論それを顔には出さない。
「あー、あいつは何と言うか体調不良。真崎は色々と忙しいんです、あなたと違って」
「ふうん〜」
一応嘘では無い理由を言う。
三代を紹介するのも、憂里が気絶している状態を説明するのも労力がいる。探りを入れられるのも面倒だと咄嗟に隠れるよう指示したのだ。、楓の言ったことを桂木が素直に信じたとは思えないが、仕方ない。
しかし。
「う……あ?」
奥の部屋で楓と桂木のやりとりを、息を潜めて見ていた千鶴と三代の二人は、静かな中で突然聞こえたその声に飛び上がった。
「クッソ……楓さんコロス……」
その部屋には、真崎は殆ど使用していないのだが、小ぢんまりとしたソファがある。そこに、楓が無理やり気絶させた憂里が寝かせられていた。
そして今ちょうど起きたのだ。
呻きながら首の後ろを押さえて、のろのろと上半身を起こす。
楓が「もうすぐ起きる」とは言っていたが、このタイミングとは図ったようだ。
「あれ?……千駄ヶ谷さんと……だ、んん⁉」
起きたばかりで頭が働いていない憂里は、何故か目の前に千鶴がいることを、そしてその隣に見知らぬ男がいることをまず疑問に思ったが、それを言い終わる前に口を塞がれた。
「黒羽君、お願い喋らないで」
千鶴は誘拐犯のような台詞と共に、憂里に向かってそう言った。そのただならぬ様子と気配に憂里は無言でコクコクと頷く。千鶴は手を離した。
三代は憂里を見ると、口だけで「自己紹介は後」と伝える。憂里はゆっくりと頷いた。
「んん?何か今聞こえた?奥の方、誰かいるの?」
「え?いや気のせいでしょ。俺は何にも聞こえませんでしたけど」
一枚の扉の向こうで、桂木の視線が痛いほど向けられていることが見なくても分かる。
千鶴と三代と憂里は開いていない扉を凝視し、外の音に耳を澄ます。悪いことをしている訳でも無いのに、心臓の鼓動が早くなった。
「なんか僕、そういうの凄く気になっちゃうたちなんだよね」
「警察ですからねぇそりゃ」
「そんで気になったこと放っておけないっていうか」
「気になるのはいいですけどほんと何にも無いですよ、そこには」
楓が必死で(勿論必死だとは悟られないように)桂木を奥の部屋に向かわせるのを阻止しようとしているが、虚しくもそんなやりとりの後に、スタスタと床を歩く音がした。
ーーやばい。こっちに来る。
三人の視線が集中する。
部屋には隠れる場所など無い。あったとしても、今動いたら確実に物音がしてその瞬間にばれてしまうだろう。
歩いて来た足音が扉の前でピタリと止まり、スライド式の扉に手が掛かる音がした。
そしてゆっくりと、薄暗い部屋に事務所内の明かりが細く差し込んだ。
ーー終わった。
桂木がその扉を横に開け放った。
その時。
「只今戻りました〜。あれ?桂木さん?」
千鶴と憂里には聞き慣れた、優しげな声色。
「真崎君!!ひゃー、久しぶり!」
「こんにちは。お久しぶりです」
声の主は、乃木真崎。
桂木の歓喜の声と共に、バタバタと足音が遠ざかって行く。しかし、依然扉は三分の一ほど開いたままである。三人は未だ動けない。
「ちょっと楓さん、お茶も出してないんですか⁉お客様に!」
「ん?忘れてた。桂木さん、客だったんだ」
「酷いよ楓君‼」
「桂木さん、ソファ座ってて下さい。今お茶淹れますね」
「わあーありがとう真崎君、君の雇い主とは大違いだ。僕のとこ来なよー」
「あはは、考えておきます」
再び足音が近くなる。
扉を開けて、真崎が姿を表した。
三人の視線が一気に真崎に向けられる。
ーーー"頼むから何も言わないで"。
真崎が三人に気付き、目が合った。
「あれ?」
驚いたような声をあげる真崎。
「真崎君ー?どしたのー?」
それと共に桂木の声。
再び終わった、と思った。
当たり前だ。真崎は今の状況を何一つ理解していない。自分が使用している部屋の中に突然、見知っているとはいえ誰かいれば嫌でも疑問の声をあげるだろう。
しかし。
「……いや、置物が倒れてて。いつのまに倒れたんだろう」
「えー?あぁ、さっきの音かな」
「音?これが倒れたせいかもしれないですね」
そう言いながら部屋の中に入り、 上着を脱ぐ真崎。その際に三人に目を向け、柔らかく微笑みながら唇に人差し指をあてた。
そして何事も無かったかのように部屋を出て、1cmの隙間を残して扉を閉めた。
残された三人は、外に漏れないように大きく安堵の息を吐いた。
「真崎さん……ありがとう……」
真崎GJな回!彼は何気に気に入っています。読んでくださりありがとうございました!




