パブロフの犬
続けて更新。やはり特に何もしていない回です。
「やーやー!久しぶり!元気だったー?」
三代はバタンと大きな音を立てて、事務所の扉を開け放った。
その瞬間、中にいた人物は勢い良く振り返った。
「千鶴!無事で良かった!」
ソファに座って携帯をじっと見つめていた楓が振り返ると同時に立ち上がり、三代の後ろに続いて事務所の中に入ってきた千鶴にそう声をかけた。
「ちょ、俺は無視かよおい」
存在自体をスルーされた三代は、頬を膨らませながら楓の肩にパンチを喰らわす。楓はそれを右手で平然と受け止めると、ついでと言ったように労った。
「ん?ああそうだ、助かったよ」
「ええ……そんだけ?久しぶりに会ったのに?」
「ごめん、冗談。まじでありがとう。うん、感謝してる」
「ほんと?じゃあ感謝はモノで示し」
「それはねぇわ」
「ひどっ!」
千鶴が突っ立ったまま眺めている中でそうやってひとしきり二人で話したあと、楓は千鶴と三代を中央のソファに座らせた。自分もさっきまでと同じ場所、その向かいに腰を降ろす。そして口を開いた。
「さて……千鶴。怪我はねぇな?」
「はい、大丈夫です」
「よかった。で、改めて紹介するか。こいつは三代夕。俺の…同僚?」
「はーい。改めてよろしく、千鶴ちゃん」
「はい。あの……本当に助かりました。ありがとうございます。それであの……黒羽君は?」
千鶴は、楓が電話口に出るまで憂里と話をしていたことを思い出して楓に尋ねた。てっきり事務所に一緒にいると思っていたが、声はおろか姿さえ見当たらない。
「あー……憂里はその、なんだ」
「?」
楓を見ると、何故かバツの悪そうな顔で視線を逸らした。そしてある部屋を指差す。
「奥の部屋……に、寝てる」
「え?」
千鶴は楓の言った内容が理解出来ず、思わず聞き返していた。
すると楓はますますバツの悪そうな顔になり、身振り手振りを交えながら、
「いや、不可抗力というかさ。まぁ聞け千鶴。あいつが千鶴の声がしなくなった時、何かあったんだっていうわけ。俺は落ち着けつったんだけど、今から行くって言って聞かねぇし。場所もわかんない癖に。だからちょっと落ち着いてもらうために、急所をトスっと……で、俺は電話口で黙って聞いてたら知ってる声がして、それが三代だったから千鶴を連れてくるようそいつに頼んだわけ」
楓は自身の首の後ろを手を横に、指を揃えてトントンと叩きながら説明をした。
千鶴は楓の話に困惑しながらも、その説明を要約した。
「えっ……とつまり、今にも飛び出して行きそうな黒羽君を黙らせるために、手刀で気絶させた、と」
「いや手刀なんてそんな大それたことじゃねぇけど、昔教わった知識でトンっと…したら案外呆気なく意識が……はは」
乾いた笑いの楓。その顔には明らかに"やり過ぎた"という文字が浮かんでいる。
千鶴は楓の強行手段に思わず溜息をついた。
ーー強引過ぎます、鷹条さん…
「大丈夫!多分もう目ぇ覚めるから!」
そんな千鶴の表情を読み取ってか、明るく取り繕うように楓はそう言った。
「ところでお二人さん、話してるとこ悪いんだけど」
その声に楓と千鶴は顔を上げる。
いつのまにか窓の方に移動していた三代が窓枠に乗り出し、下を覗き込みながら言った。
「誰か来るよ?真崎君じゃない人」
「え」
「あ?」
三代の言葉に、楓が立ち上がる。そのまま窓枠に寄って行き、三代と同じように身を乗り出して下を覗き込んだ。
その動きが止まる。目を見開いて、そして次の瞬間、大声を上げた。
「っやべ‼二人とも隠れろ‼」
「「え??」」
楓の視線の先の地上には、いつものラフな格好に、学生かと見間違うような童顔の男、桂木がいた。
久しぶりに桂木さんです。
憂里が不憫すぎる…いつか楓に復讐をば…
読んでくださりありがとうございました〜!




