問う
「京馬?変わった名前」
憂里は悪びれもせず、ぼそりと呟いた。そんな様子に京馬は舌打ちをし、憂里を正面から見据える。
「失礼だなお前」
「お前じゃなくて黒羽憂里」
「…黒羽?ああ、お前が……」
それを見ていた楓が横から小さな声で口を挟んだ。
「ちなみに京馬の下の名前は行」
「鷹条…何度言ったら分かるんだよ」
「はいはいごめんな呼んだらだめなんだよなー。でも親からもらった名前は大事にしろよ」
茶化すように笑う楓に京馬は荒々しくスーツのポケットから二本目のタバコを取り出し、ライターで火をつけた。
「あ……」
その行動で、憂里は一瞬で思い出すと共に理解した。先ほどの千鶴と全く同じように。
"影"が滲み出た若者を倒したのはこの人だ、と。正確には、少女の方だが。路地裏の壁から覗いた時に見えた、赤い炎に匂い。あれは京馬のタバコだったのだ。
「……ところで楓さんと京馬さんってどんな関係なの」
「腐れ縁だよ腐れ縁」
「縁っていう字があるだけで虫唾が走るけどな」
「つれないなー行ちゃん」
楓のへラリとした態度に眉を顰める京馬。それを横目に、憂里はずっと気になっていたことを京馬の隣にいた少女に尋ねる。
「っていうか君は?」
「ん?あ!申し遅れました、七尾伊万里っす!」
しばらく黙って話を聞いていた少女は、ビシリと敬礼のポーズをする。
すると楓が真顔で、「いくつ?」と尋ねた。
「17ですっ」
「あ、同い年……黒羽君も」
少女ーーー伊万里がそう答えると、憂里の横にいた千鶴がおずおずと言った。それを聞くと、伊万里は途端に破顔する。
「ほんと!?よろしく!」
その人懐こい笑顔につられて千鶴も微笑む。
「それで?一緒に居ても何の面白みもない京馬とどんな関係なの?」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ」
あっけらかんとした表情でそう尋ねた楓にすかさず反論する京馬だが、それを華麗にスルーして伊万里は楓の質問に答える。
「師匠です!」
「は?師匠?なんの」
「刀」
以前、通学途中にぶつかった際に刀が入った袋を無くした時(結局吹っ飛ばされて少し離れた場所にあったのだが)、伊万里が言っていた「どやされる」相手とはこの京馬だったのだろう。
「ああ……剣術ね、お前それだけは得意分野だもんな」
「人を何の特技も無い奴みてぇに言うな」
「まあそういうことです」
「おい伊万里」
「あはははゴメンナサイ」
京馬は苛立たしげに煙を吐く。
「おい鷹条、一般人まで巻き込んでんのかよ。お前はいくつになってもそうだ」
「あのな、こっちにも色々あんの。第一、千鶴は一般人じゃないぞ」
「あ?」
「まあその話は長くなるから後で。と言うか薄々お前じゃないかとは思ってたけどやっぱりそうか」
楓は軽く溜息をつきながらそう言った。憂里は事務所を出る少し前に楓が言っていたことを思い出す。
「楓さん。さっき言ってた調べたことってそのこと?」
「ああ。本部から派遣された、ここの区域を任された人間ってやつな。真崎が調べたから間違い無いはずだ」
「それが……京馬さん?」
憂里のその質問には答えず、京馬は遠くを見るような目で言った。
「真崎といえば……あいつは元気なのか。こんな奴の下についてるなんて可哀想で仕方ねぇな」
「おいお前失礼だぞ俺に謝れ」
む、と口を尖らせる楓。
「ねぇ、結局どういうことなの」
いつまで経っても進まない話に、憂里が呆れ顔で急かした。その横では千鶴が、向かいでは伊万里が黙って事の成り行きを見守っていた。
京馬は再び煙を吐くと、めんどくさそうにしながらもゆっくりとその口を開く。
「……つい最近、上から俺に指示が来た」




