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Black Rumor  作者: 東
23/77

また明日

連続更新。


「あっ」


突然の電子音に千鶴が声をあげた。

話に入り込んでいた憂里と、これから一番大事なことを言おうとしていた楓は、その音と声に驚いてそちらを見遣る。

慌てた様子で鞄を探る千鶴。


「ご、ごめんなさい、電話が…」

「あぁなんだ、出ていいぞ」


携帯を取り出し、耳にあてる千鶴。その電話口から女性と思われる声が漏れている。


「うん、わかった今からー…わかってる、切るよ」



抑揚の無い声で話す千鶴を横目で見つつ、憂里はさっき楓が言ったことを考えていた。

本部から派遣された人物。

自分たちでさえ気づかないうちに、全ての"影"を退治していたという事実に驚くと共に訝しんだ。

一体誰が。

それほどの力を持つ人間はどんな人物なのか。

相変わらず眉間に皺を寄せて考え込んでいた憂里は、千鶴の声に顔を上げる。



「ごめんなさい、私そろそろ帰らないと…こんな大事な場面ですみません…」



千鶴の電話の相手は母親だった。いつもは帰りが遅くなる連絡をしてから出掛けていたが、今日は何も言わずに来てしまった。何せ突然担任に引きとめられ、頼まれごとをされたから。

楓は壁に掛かった時計を見た。



「ああ、もうこんな時間だもんな。悪い、長く引き止めて」

「いえ…あの、続きなんですけど…」

「あー明日は来れるか?憂里、お前も気になるだろうけど二人一緒の方がいいだろ。明日は真崎もいるし」

「…気になるなんてもんじゃないよ」


憂里はしかめっ面で楓に文句を言う。


「ごめんなさい黒羽君」

「あ、違う違う千駄ヶ谷さんのせいじゃなくて」


心なしかしょんぼりした千鶴に、憂里は焦って手を左右に振る。そして、自身の目の前を指差して、ハッキリと言った。


「楓さんのせいだから!」

「お前‼」


千鶴は二人のやりとりに少し笑って、そしてもう一度謝りながら鞄を手に立ち上がった。


「危ないから送ってくぞ?憂里が」

「楓さんよ…でもほんと送るよ」

「大丈夫、そこまで遠くないから」


自分の都合なのにこれ以上迷惑をかけるわけには行かない。

近くは無いが、決して一人で帰れない距離でも無い。


「本当すみません。お先に失礼します」

「大丈夫か?」

「送ってくのに…」

「大丈夫です、ありがとう」


心配する憂里と楓にお礼を言って、扉の方へ歩いて行く。

ドアノブに手を掛け、振り返って頭を下げる。


「それじゃ…あの、明日話の続き…お願いします」

「おう。本当に大丈夫か?気をつけて帰れよ」

「じゃあまた明日」

「…失礼します」


薄く微笑んで、扉を閉める。エレベーターのボタンを押して、千鶴はちょうど同じ階で止まっていた小さな鉄の箱に乗り込んだ。



千鶴がいなくなった事務所では、楓がニヤニヤしながら憂里に尋ねる。


「なあなあ。お前らって…付き合ってないの?」

「はぁ?何言ってんの楓さん」

「勿体無い」

「何が」

「だって千鶴は可愛いし聡明で良い子じゃんか。あぁ逆にお前には勿体無いか」

「…馬鹿じゃないの、おじさんみたいだよ楓さん」

「おまっ…」


そんなたわいもない話をする二人。


「まあ、大事な話の続きはまた明日な」


楓が笑顔でそう言った。



***



それから15分後、事務所から僅か300メートル離れた路地裏に、千鶴は足から血を流して座り込んでいた。


15分前、明日話をしようと憂里に向かって笑いかけた楓だが、それは早々に叶わなくなった。



ここまでやってしまうともう続きが…

思い浮かばな…い…

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