また明日
連続更新。
「あっ」
突然の電子音に千鶴が声をあげた。
話に入り込んでいた憂里と、これから一番大事なことを言おうとしていた楓は、その音と声に驚いてそちらを見遣る。
慌てた様子で鞄を探る千鶴。
「ご、ごめんなさい、電話が…」
「あぁなんだ、出ていいぞ」
携帯を取り出し、耳にあてる千鶴。その電話口から女性と思われる声が漏れている。
「うん、わかった今からー…わかってる、切るよ」
抑揚の無い声で話す千鶴を横目で見つつ、憂里はさっき楓が言ったことを考えていた。
本部から派遣された人物。
自分たちでさえ気づかないうちに、全ての"影"を退治していたという事実に驚くと共に訝しんだ。
一体誰が。
それほどの力を持つ人間はどんな人物なのか。
相変わらず眉間に皺を寄せて考え込んでいた憂里は、千鶴の声に顔を上げる。
「ごめんなさい、私そろそろ帰らないと…こんな大事な場面ですみません…」
千鶴の電話の相手は母親だった。いつもは帰りが遅くなる連絡をしてから出掛けていたが、今日は何も言わずに来てしまった。何せ突然担任に引きとめられ、頼まれごとをされたから。
楓は壁に掛かった時計を見た。
「ああ、もうこんな時間だもんな。悪い、長く引き止めて」
「いえ…あの、続きなんですけど…」
「あー明日は来れるか?憂里、お前も気になるだろうけど二人一緒の方がいいだろ。明日は真崎もいるし」
「…気になるなんてもんじゃないよ」
憂里はしかめっ面で楓に文句を言う。
「ごめんなさい黒羽君」
「あ、違う違う千駄ヶ谷さんのせいじゃなくて」
心なしかしょんぼりした千鶴に、憂里は焦って手を左右に振る。そして、自身の目の前を指差して、ハッキリと言った。
「楓さんのせいだから!」
「お前‼」
千鶴は二人のやりとりに少し笑って、そしてもう一度謝りながら鞄を手に立ち上がった。
「危ないから送ってくぞ?憂里が」
「楓さんよ…でもほんと送るよ」
「大丈夫、そこまで遠くないから」
自分の都合なのにこれ以上迷惑をかけるわけには行かない。
近くは無いが、決して一人で帰れない距離でも無い。
「本当すみません。お先に失礼します」
「大丈夫か?」
「送ってくのに…」
「大丈夫です、ありがとう」
心配する憂里と楓にお礼を言って、扉の方へ歩いて行く。
ドアノブに手を掛け、振り返って頭を下げる。
「それじゃ…あの、明日話の続き…お願いします」
「おう。本当に大丈夫か?気をつけて帰れよ」
「じゃあまた明日」
「…失礼します」
薄く微笑んで、扉を閉める。エレベーターのボタンを押して、千鶴はちょうど同じ階で止まっていた小さな鉄の箱に乗り込んだ。
千鶴がいなくなった事務所では、楓がニヤニヤしながら憂里に尋ねる。
「なあなあ。お前らって…付き合ってないの?」
「はぁ?何言ってんの楓さん」
「勿体無い」
「何が」
「だって千鶴は可愛いし聡明で良い子じゃんか。あぁ逆にお前には勿体無いか」
「…馬鹿じゃないの、おじさんみたいだよ楓さん」
「おまっ…」
そんなたわいもない話をする二人。
「まあ、大事な話の続きはまた明日な」
楓が笑顔でそう言った。
***
それから15分後、事務所から僅か300メートル離れた路地裏に、千鶴は足から血を流して座り込んでいた。
15分前、明日話をしようと憂里に向かって笑いかけた楓だが、それは早々に叶わなくなった。
ここまでやってしまうともう続きが…
思い浮かばな…い…




