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Black Rumor  作者: 東
21/77

大正解


「すいません……」


入口から聞こえたのは、その場にいた三人中二人には聞き慣れた声だった。

一方桂木は一人首を捻る。

おずおずと姿を現した少女に、憂里は少なからず驚いた。


「千駄ヶ谷さん」


その名前に桂木は再び首を捻る。

誰、と尋ねる間も無く楓が一歩前に出て声をかけた。


「よお千鶴。どうしたんだ珍しいな」


楓に向かってぺこりとお辞儀をしつつ、千鶴は自身の右肩にかけた通学鞄を指差す。


「あの、先生が、黒羽君に渡してくれって……プリント」

「プリント?」

「黒羽君先に帰っちゃったから」

「ああ……ごめん。ありがとう」


礼を言い、ファイルに入ったプリントを千鶴から受け取る。そしてそれを机の上に無造作に置き、未だ疑問符を浮かべている桂木の方を向く。


「あ……こちら、千駄ヶ谷さん。俺の学校の、友人」


完全に初対面である桂木に、千鶴を何て言って紹介するか迷った挙句、結局当たり障りのない言葉を選ぶ。


「あ、どうも……こんにちは……」


千鶴はおずおずと、桂木を見て頭を下げる。その表情はなんだか固い。

一方で桂木は、千鶴を見て笑顔で返す。


「やあ!初めまして、僕は桂木。よろしく」

「はあ、どうも……」

「桂木さんはね、警察官なんだ」

「警部だよ!」

「警察官……ですか」

「そう。仕事しないけどね」

「憂里君一言余計!」


あははと笑いながら反論する桂木だが、次の瞬間突然に発せられた言葉に、その場にいた全員が硬直する。



「して千駄ヶ谷千鶴さん。いきなりだけど君ーー、一般人じゃないね?」



***



「どういうこと?」


そう尋ねたのは、千鶴ではなく憂里だった。眉間に皺を寄せながら、厳しい口調で問う。


「千駄ヶ谷さんは普通の、俺の友人。てか桂木さんの中で一般人の定義って何さ。じゃあ俺は何」

「まあまあ憂里君、落ち着いて」

「全然落ち着いてるよ。ただどういうことか聞きたいだけ」


その様子を、ソファに座った楓は黙って見つめる。コーヒーを口に運びつつ、何も言わずに事の成り行きを見守っていた。

一方話の中心にあがっている千鶴だが、訳がわからず部屋の中で立ったまま話の続きを聞いていた。


「なんでそう思ったの」

「そんなの君には分かってるでしょ」

「勘?」

「そう!」


憂里が尋ねたその言葉と、桂木の清々しいほどの返事に、千鶴は少なからず狼狽する。


ーー勘?


桂木の言葉にも楓はなお黙ったまま、ちらりと千鶴を見遣り、それから憂里に視線を移す。


「憂里君、言ってしまえば君も一般人では無い。勿論楓君もだ。真崎君は……まあ一応は一般人だな。そして千鶴ちゃん、君は普通でも無ければ完全に特殊でも無い……どちらかと言えば特殊な方、かな。けど二人とは完全に違うタイプ、ってとこかな」


すらすらと言葉を紡ぐ桂木とは逆に、千鶴と憂里は閉口する。


当たっている。


初対面であるはずの桂木が、憂里はともかく千鶴のイレギュラーさを暴くなんて、ありえないことだ。

桂木は"こっち側"の人間ではない。

いち警察官。それなのにその存在はある意味憂里たちよりも普通でなかった。


「それも全て、あなた特有の勘、ですか」


それまで黙っていた楓が、向かい合って座る桂木に言った。

その表情はいたって普通。


「そうだよ。だからいつも楓君とこに聞きに来るんじゃん、何か"僕たち"が知らない情報を持ってるんじゃないか、って」


“影”絡みの、つまり退治人絡みの事件が起きると、桂木は必ずと言っていいほど楓の事務所に乗り込んできた。しかも単身で。

“影”が関係した事件は、退治人の能力ゆえ情報が少なく、目撃者もいなければ証拠もない。被害者でさえも前後の記憶があいまいとなると、犯人を捕まえるどころか、立証も難しい。

そんな中で桂木は、楓に問う。


"君は何か関わっていないか?"、と。


そしてそれは正解である。

退治人である楓や憂里、同じ力を持つ者が、"黒い影"を纏う人間を暗闇から引きずり出すべく"切る"。

それは立派な「仕事」であるが、世の中には勿論通用しない。

そのような能力は周囲の人間に認知されていない。ほんの一部の人間が持って生まれたため、"普通でない"力なのだ。

そのため一般人には極秘である。

都内の某所にその本部があるが、それは裏の組織同然で、まず知られることはない。


桂木は勿論それらのことを知らない。

にもかかわらず、楓を謎の多い"事件"の関係者の一人として見ており、何かと会いに来るのだ。

その理由は、にわかに信じられないが、「勘」である。


最初の"事件"が起きたとき、桂木が楓の事務所に現れた。

元々古い知り合いだった二人だが、突然訪ねてきた桂木に驚いたのも事実だ。しかも、このタイミングで。

そして桂木は言った。君は何か関わっていないか、と。


一応楓は尋ねた。だが極秘につき真実を答えるつもりは勿論無い。それでも尋ねてみた。

「何故、俺がこの"事件"に関係していると思うのか」。

すると桂木は平然と答えたのだった。


勘、だと。

彼は、直感で真実を見抜いてしまう力を持っているのだ。



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