緊急メール受信
『大至急ウチに寄れ』
鷹条楓から憂里の携帯にそんなメールが届いたのは、授業が終わって帰り支度をしている時だった。
「……?」
画面を見て首を捻っている憂里に、千鶴の話をしてから急に打ち解けた前の席に座る少年、浅井小雪が声を掛けた。
「黒羽ー?どしたよ」
「いや、ちょっと……何だろう……」
「?」
今度は逆に小雪が首を捻る。そんな小雪に憂里は、
「ごめん浅井君、おれ帰る」
「え、おい……」
「千駄ヶ谷さん!」
同じく帰り支度をしていた千鶴を呼んだ。
教室内にはすでに生徒は少なかったが、憂里の声に数人が反応し千鶴と憂里を見遣る。
「……なに?」
千鶴がそう返事すると同時に、憂里は鞄を掴んでいた。
「じゃあ浅井君、また明日」
「え?おい黒羽?ちょ……千駄ヶ谷さんと何……、ええ?」
だいぶ混乱している浅井少年をよそに、そのまま千鶴のもとに歩み寄る。
「ちょっと一緒に来て欲しいんだ。例の”会わせたい人”からちょうど連絡が」
「……わかった」
何処と無く緊迫した様子が見て取れる憂里に、千鶴は頷いた。
鞄を手にし、二人して教室を出る。
取り残された小雪は、二人の後姿を見送って一人呟いた。
「何なの……あの二人……」
***
「ここだよ」
二人は教室を出てそのまま駅の方面へと進み、憂里の案内で街中のある所で立ち止まった。
灰色の薄汚れたビル。
憂里は一階のドアを開けると、千鶴を招き入れた。
向かって左側の管理人室には人が居らず、エレベーターには「故障中」という貼り紙があった。
隣で憂里の舌打ちする音が聞こえた。
「まだ直ってないのかよ……仕方ない、階段で行こう」
「何階?」
「……5階」
そう言ってあからさまに嫌そうな顔をする憂里を見て、千鶴は少し笑った。
***
二人は階段を上りきり、荒い息を整えていた。
やはりそこにひと気はなく、ひっそりと静まりかえっている。
千鶴は辺りを見回して、そして唯一のドアの前で視線を止めた。
「ここ……?」
「そう。ここ」
見るとドアには"営業中"という文字の金属のプレートが掛かっている。
しかしその上、千鶴の頭よりやや上の所には、ただの白い紙に殴り書きで"本日臨時休業"といった貼り紙がされていた。
「……さて」
憂里はそう言うと、
コンコン、とドアをノックした。
そして中の人物の了承も得ず、勝手にドアを開け放った。
「ーーー来たよ」
「おじゃまします……」
堂々と入って行き、そう叫ぶ憂里。
千鶴は恐る恐る足を踏み入れる。
その時、奥からガタリと物置がした。
そして、
「おお、来たな。噂のお嬢さんも一緒か」
やけに整った顔立ちの黒髪の男性が、部屋の奥から顔を覗かせた。
するとそれに続いて、もう一人姿を現した。
「いらっしゃい憂里君、ーーーあれ、女の子……ああ!あの……」
淡い茶髪に、黒髪の男性よりも頭一つ分は高い長身の優男だ。
「紹介するよ。この二人が俺の言ってた、"会わせたい人ーーー鷹条楓……さんと、乃木真崎さん」
憂里が二人を交互に指差すと、黒髪の男の方が千鶴に向かって恭しく一例をした。
「初めまして、お嬢さん」




