表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black Rumor  作者: 東
10/77

内側に棲む



負の感情。


人々の内にある、妬み、憎しみ、怒り。人の心を暗く黒くする、悪しき感情。

人間の心には常にそれらが巣食う。

自分と、他人。

相入れない存在が居ると、人間は自然と相手を拒絶する。そしてそれらの感情が"黒い影"を生む原因となり、それは人間の心理状態に影響を及ぼすようにもなる。

“影”は時に自我を飲み込み、覆い尽くすのだ。



***



「で、俺達は、その"黒い影"を消滅させるのが仕事」

「仕事……?」

「そう。前にも言ったけど、俺以外にもいる。細かく話すと長くなるから端折るけど、大まかに説明すると、俺達は「退治人」って言って、人の心に巣食った"影"を退治するのが役目」


憂里はそう言ってから、手元にあるナイフをポン、と叩いた。


「こいつでその"影"を、つまり人間を、刺す。でもまあこのナイフは人間には効かない。さっき説明したけどね。人間の内に巣食った"影"を切るだけで、傷一つつかないわけ」

「……なるほど。黒羽君みたいな退治人?ってどれくらいいるの?」

「さあ。それは俺にもわからない。けど、東京都の向こう側のもっとあっちの方に、俺達をまとめる、まあいわゆる本部、って呼んでるけど、そういうのがある」


そう言って窓の外、東の方向を指差す憂里。


「まあ要するにお偉方がいるわけ。で、そこから俺達に色々指令が来る」

「なるほど……」


ひとしきり納得した千鶴は、前に聞いたあの噂について思い出した。


「話が戻るんだけど、聞いた噂によると、事件……って言うのも変だけど……夜にばかり起こるって」

「ああ。"影"が一番濃くなるのは夜だ。闇が濃くなるにつれて、"影"も増幅する場合が多い。あともう一つ、若い人に多いなんて言うのは、最近の若者はキレやすいって言うでしょ。そんな感じで、精神的に未熟というか、そういう人の方が"影"に入り込まれやすいからね。先日襲ってきたあの男も」

「そうか……」


聞けば聞くほど深い所に繋がる話に、千鶴は溜息を吐き出した。


「ただの噂かと思ってたのに、こんなに身近な話だなんて」

「……まあ、偶然に偶然が重なったね。たまたま助けたのが千駄ヶ谷さんだったし、その千駄ヶ谷さんが"見える"体質だし」

「私みたいに、いきなり見えるようになるものなの……?」

「んー、人によりけり?生まれつきの人もいるし、千駄ヶ谷さんみたいに後天的になる人もいるし」

「そうなんだ……ちょっと安心」

「ただまあ……後天的に見えるようになる人は圧倒的に少ないみたいだけど」



***



「っと、もうこんな時間だ……」

「え。あ、ほんと」


話し始めてどれくらい経っただろうか。外はもう真っ暗で、家々の灯りがやけにハッキリと見える。電気も点けずに話していたせいか、職員の見回りも来なかった。


「職務怠慢だ……」


二人は誰もいなくなった校舎から出ようと昇降口に向かったが、そこには鍵がかけられていた。


「あー。裏口から出よう」


かろうじて開いている(いつも掛かっていない)裏口を出、いつも出入りする正門ではなく西門に向かった。

しかし、当たり前だが鍵が掛けられている。決して低くはない門。


「しょうがないね……登ろう」

「……え?あ、あぁうん」


千鶴が何の気なしに発した言葉に憂里は若干驚いた表情。それに気付いた千鶴は、


「……なに?」

「いや……女の子だからそういうのあれかと」

「だってそうじゃないと帰れないじゃない……?」

「……そだね」


地面を軽く蹴って、まず最初に門の上へと登った憂里は、何の苦労も無くひょいと飛び降りた。なんてことない軽やかな動き。


「よし。千駄ヶ谷さん、手伝う……よ……?」


憂里が後ろを振り返って千鶴に手を差し伸べようとした瞬間、千鶴は器用に門へ登ってストンと憂里の横に着地していた。

ふわりと風に揺れるスカート。

難なく立ち上がった千鶴を見て、憂里は静かに驚きの声をあげる。


「何というか、すごいね、千駄ヶ谷さん……」

「……え、そう?」

「運動神経、いいんだね……」

「うーん……そうかな」


憂里は、今日初めて(正確には一週間前だが)話したばかりのクラスメイトの、新たに発見した能力の高さについて静かに慄いていた。



「さて……すっかり暗くなっちゃったね……帰ろう」

「うん」


西門を出てすぐに、千鶴と憂里の帰路は二つに別れることになった。


「黒羽君、家そっちなのね」

「あ、いや、本当は千駄ヶ谷さんと同じ方向なんだけど……今日は行く所が……」

「あ、そうなんだ。それじゃあまた」

「うん。……気をつけてね?」

「大丈夫」

「心配だなぁ……暗いし」

「慣れてるから、大丈夫」


それは慣れちゃダメだろう、と心の中で突っ込みながら、じゃあ、と手を上げた。


「……また明日」

「うん、また明日」


そう言って、一人歩き始めようとしたところ、後ろから声が掛かった。


「……黒羽君」

「ーーーん?」


振り返ると、千鶴が頭を下げた。


「ありがとう」

「……いいや。また、明日」


憂里は再び千鶴にそう言った。

千鶴が薄く笑って、家に向かい歩き出すのを数秒間見届けてから、憂里は今度こそ歩き始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ