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買い物








華やぐ城下町。

人々の活気に、こちらまで元気になってくる。


私は生まれて初めて、城下町という場所へ足を運んだ。

……一度、王宮へ行く時に通ったそうだが、私の記憶がないので勘定に入れないことにした。



「あら、見てアリアちゃん! あのティーカップ可愛らしいわ!」



きゃっきゃうふふ、と隣ではしゃぐレイミールさん。深々とかぶった帽子から出ている薄紫色の髪が、歩くたびに上品に揺れる。

こんなにはしゃいで……よっぽど楽しいのだろう。かわいいなぁ、レイミールさん。



「本当ですね! あ、あっちのハイヒールとかレイミールさんにピッタリですよ!!」



…………まぁ、私も人の事を言えないので、口には出さない。


ここへ来た目的は、第一に仕立て屋さんだった。

いつまでもレイミールさんの服をお借りしているわけにはいかないし、城下町には行ってみたいと前々から思っていたのだ。


少し前に城下町へのお誘いがレイミールさんから来ていて、レイミールさんの都合が空いたということで、ご一緒させてもらった。


当初、二人で出かける予定だったのだが……。



「一応、一国の王女なんだから、騒がないでくれ」



隣で重いため息をつくフェノル。今日は騎士姿ではなく、普段着のようだ。あまり装飾のないシンプルなデザインのものだが……材質の良さそうなものを身につけている。そしてなぜか目にかかるか、かからないか程度の前髪をオールバックにし、黒縁のメガネをかけている。


いや、なんでいるのよ?

怪訝な顔をしている私に、レイミールさんが説明をくれた。



「最初は二人でいくから、って言ったんだけどね? フェノルったら、危ないから俺も行くだなんて言い出したのよ。王女と医者に王子が付き添ったところで危なさが増すだけだと思うわ」



残念そうに首を振るレイミールさんに、フェノルはすかさず言う。



「王子といっても騎士だぞ。女二人で行かせるよりはいいだろう。それに、いつあんたが王女だとばれるかもわからない」


「だからちゃんと帽子かぶってるじゃない! 女二人の買い物についてくるほど無粋なものはないと思いますけどねー?」


「あーはいはい。悪かったよ。俺が勝手についてきているだけだ。気にするな」


「ふふふ。まぁ、安全という面では、感謝するわ」



お姉さまには頭が上がらないそうだ。

フェノルに自らの負けを認めさせるなんて……レイミールさん、やりおる。


どうりで、レイミールさんは顔を隠すように帽子をかぶっているし、フェノルも前髪の形を変えてメガネなんてかけているわけだ。


変装のつもりなのだろうが……いろいろな意味で、目立っている。美男美女、恐ろしい。


身分の高い人は、それだけ自由度の少ない生活を強いられる事が多いという。

その点、私はなにかと自由な生活を送ってきたのかもしれない。


まぁ、人と自由度を比べるなんて無意味なことだ。

価値観なんて人それぞれなんだから。







 少し歩くと、すぐに目的だった仕立て屋を見つけた。


可愛らしい布やレースが綺麗に並べられている。もちろん服もだ。

レイミールさんが即座に、気に入った商品を見つけたのか、そちらへ走っていく。



「アリアちゃんは天使のようなお医者様だから、白いのがいいと思うの! 漆黒の髪に相反して、美しさが増すと思わない?」



と、白いスカートを片手に、淡いハニーブロンドの上着をもう片方の手に持つ。

スカートは大きなフリルが可愛らしく、上着はそれに合わせて選ばれたのか、スカートによく似合う色合いだった。


ただ……すこし、可愛すぎじゃありませんでしょうか。それにこれでも騎士団の医者なんだから、この服に血とか泥とかついた日には大変だ。泣き喚くかもしれない。


もとより服は、体を守るため、隠すために身につけていたものだ。

なかなかオシャレという感覚は身につかず、私は少し戸惑った。


その後も、あれよこれよとレイミールさんに進められ、着せ替えられ。

レイミールさんが止められないほどに暴走しだしたせいか、フェノルは私たちから少し離れ、生地を選んでいた。

フェノルも服を買うのかな……?


そんな疑問は、すぐにレイミールさんの着せ替えという名の攻撃によってどこかへ飛ばされた。



結局私は、膝丈のワンピースと、上から羽織る上着をそれぞれ二着。夜用のネグリジェを一着購入した。

ちなみに、すべてレイミールさんの見立てだ。


なんとこのお店は王族の方もたまに使われるようで、多くの高級品も置いてある。高級品を身につけられそうになってはなんとか断っていた。

生地はたくさんあり、貴婦人のドレス等も仕立てることが多々あるそうだ。レイミールさんはここのお得意様だそうで、購入した服を王宮まで送ってくれるという仕立て屋さんの好意に甘えた。




 仕立て屋から出ると、レイミールさんの驚異的な歩行速度の速さに驚きつつも、なんとか彼女についていく。

多くのお店を周り、お昼ご飯を食べる。



 途中のお店で、とても可愛らしい髪飾りを見つけた。銀色を基調とし、先端には薄桃色と浅葱色の薔薇の装飾がついている。一瞬目を奪われたけど、レイミールさんとの距離をあけるわけにもいかず、彼女を追いかけた。


楽しかった。こんなに贅沢にお金を使ったことには少し不安もあるけど、レイミールさんと友人のように、姉妹のように過ごせたことが嬉しい。


途中何度かフェノルの存在を忘れかけたが、フェノルはその様子に気づいていないようなので、言わないでおく。


太陽が赤く染まり、もうすぐ夜になることを私たちに知らせた。



「さて、そろそろ帰りますか」


「はいっ。きょうは楽しかったです! ありがとうございました!」


「どういたしまして。あたしも楽しかったわ。また行きましょうね。……あ、ちょっと寄るところがあるから、ふたりで先に帰って? フェノル、しっかりね」


「え?」



私たちの返事も聞かないうちに「じゃぁ、また!」と言うなりすぐに彼女は駆け出した。



「レイミールさん、どこに行くんだろう?」



取り残された私の当然の疑問。

それに、王女様が一人で街を歩くなんて危険じゃ……。



「おそらく、レイナルのところだ」


「レイナル?」


「姉さんの…………昔の恋人だ」



む・か・し・の・恋人!?

恋人ってあれですか。お互いに愛し合ってる男と女の関係ですよね?

■◇%#&$☆なんかもしちゃう間柄のことですよね!?



「思考がダダ漏れだぞ」


「…………失礼」



フェノルに注意され、なんとか抑制する。


あれ、でもなんで昔の恋人なんだろう?

わざわざ昔の恋人のところへ会いにいくものなの?

ん? わからなくなってきた。



「そっか、レイミールさんに恋人がいたのかぁ」



あれほど美人で、明るくて、気さくな女性だ。男なんて私の想像できないほどよってきただろう。

そんな人にも、特別な人がいたんだ。

彼女に愛される男性は、さぞ幸せだろう。


少し、そのレイナルという男性が羨ましくなった。



「レイミールさんに愛されるなんて、幸せ者だね」


「…………そうでも、ないと思うぞ」


「え?」



幸せじゃない?

どういうことだろう。


だんだんと薄暗くなっていく空の下、フェノルはさみしそうにつぶやいた。









次回、やっとフェノルのターンです。

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