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紹介







 「皆、少し集まれ」



特に叫んだわけでもないのに、フェノルの声はよく響いた。

騎士たちはすぐに訓練をやめ、集合してくる。そして、みんな、それが礼儀だとばかりに甲を外した。


フェノルは全員が集まったことを確認すると、私のとなりに立つ。



「今日から、我々第二騎士団の専属医務として働いてもらうアリアだ」



唐突に、紹介をされ、視線を送られる。フェノルに小声で自己紹介しろ、と言われるが……。

いきなりですか!? 自己紹介なんて考えてませんよ!?



「え、えっと、今日から働かせていただきます。アリアです。よ……よろしくお願いしますね」



自分の名前と挨拶をする程度しかできなかった。

挨拶のネタがないのを、微笑でごまかす。


うおおおお、という歓声がちらほらあがったが、そんなに医者がいることが嬉しいのだろうか。

どれだけ怪我をするのだろう。心配になる。


質問がある奴はしていいぞ、というフェノル。

ちょっと待て。私の意思はどうなる。


しかし、そんなことは関係なしに、多くの人が質問を重ねてきた。



「どの程度までの怪我なら治せますか!」


「えっと、骨折くらいならすぐに治せます。切り傷も、貫通さえしていなければある程度なら……」


「気分が悪くなったら、頼ってもいいかな?」


「もちろんです。いつでも言ってくださいね」



一つ一つ答えていくと、さらに質問の速度が上がる。



「どうして専属医務になったんですか」「年齢はいくつ?」「付き合っている男はいるのか」などなど。


最後の方の質問に関しては、質問の意味を感じないが……きっと、騎士の方々なりの、場を和ませるための冗談なんだろう。そう自己完結させる。


どんどん迫ってくる騎士たち。

なんというか……汗くさい。

訓練は厳しいものだし、当たり前といえば当たり前か。スラム街のように泥臭さが少ないだけマシというもの。


さすがにひとりでは答えられなくなっているところ、フェノルが質問をやめるように言った。



「これからは、いつでも怪我をできるから安心しろ。ただし、わざと怪我や病気になるようだったら俺が教育しなおしてやるから、覚悟しろよ」



一瞬で騎士たちが静まり返る。口をつぐむだけではなく、明らかに青ざめている者までいるのだ。

そんなにフェノルの教育は恐ろしいものなのか……。

疑問に思っていると、ルルが耳打ちしてくれた。



「フェノルはね、縄で縛って、鞭打ちするんだ。容赦はないわ、痛いわで大変なんだよ」



くすりと笑うルル。鞭とはなんと恐ろしい。どうりで騎士の人たちが怖がるわけだ。

しかも、縛ることで逃げ場をなくすなんて! 考えただけで体が震えそうになる。

悪魔・フェノルがここに誕生するのか!


そんな内心までも見透かしたのか、フェノルは私を見て重いため息をついた。



「それはルルがやってたことだろう」


「あれぇ? 僕はそんな怖いことしないよ~」


「嘘つけ、この腹黒が」


「ふふふ」



否定はしないのか……そう思いつつも、ルルからは一歩距離を取ろうと決めた。


また、フェノルが訓練を再開するように言うとそれぞれ自分の訓練を行っていた場所へ戻り、組手やらすぶりやらを再開する。もちろん、フェノルとルルも訓練に加わった。


結構、真面目な人たちが多いのかもしれない。


時々、ずば抜けて大きく鳴り響く、かすれた金属音に驚く。

その先には、フェノルが鎧もつけずに複数の人と手合わせしている。


全員、使っている剣は刃の潰れたものだ。

さすがに訓練で致命傷を追わないように、という配慮なのだろう。

しかし、あれは当たると痛そうだ。


刃がないから、切り裂く事はない。

その代わりに、内部のほうに衝撃が伝わる。内蔵を壊したり、骨が砕けたりしなければいいのだが……。それらから身を守るための甲冑もあるのだし、大丈夫かな?


そんな不安をよそに、今日は誰ひとりとして怪我することなく、訓練が終わった。












 

 部屋へ戻ると、一通の手紙が、机の上に置いてあった。


何も書かれていない、シンプルなデザインの封筒から中身を出し、読んでみる。

綺麗な字で、こう綴ってあった。



《アリアちゃん


唐突にこちらへ連れてきてごめんなさいね。

まだこっちの生活にも慣れていないだろうし、服とかも必要じゃない?

だから、近いうちに私と一緒に城下町でデートしましょう!


フェノルにはこちらから伝えておくから、気にしないでね。

ふふふ、アリアちゃんが着せ替え人形になってくれるなんて嬉しいわ。絶対に似合う服を買ってあげる!


楽しみにしててね。


レイミール》



わぁ、城下町へいけるのか! 楽しみだ!

さっそく、手紙の返事を書こうと思ったが……私は字をかけないんだ。読むことはかろうじてできるが、自分の言葉を字に表そうと思うと難しい。そして、今私の手元には羊皮紙も用筆もない。


この時、私は生まれて初めて、字がかけないことを悔やんだ。








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