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目論見と配属








 フェノルは私の腕を放すと、近くのイスに座った。



「アリアをここに連れてきたのには二つ理由があるんだ」



ほぅ、理由とな。

確か、連れてきたのは彼の一存だったと言っていた。

勝手にこんな部屋まで私に貸して怒られたりしないのだろうか?



「まずは、まぁ、暴走していた少女を気絶させて放っておくというのは、後味が悪いからな」



……そういえば、あなた私のお腹にグーパンチを食らわせたんですよね。

女の子の大切なお腹だというのに。結構痛かったなぁ。


じとり、と彼を見ると、視線の冷たさが伝わったのか、フェノルは視線を逸らし、うつむく。



「もう一つは、お前の魔術だ。自分で治癒が出来ると言っていたし、草を分解していた。治すのと壊すのは表裏一体で、あそこまで粉々にできるのであれば、かなりの治癒能力があるとふんだからだ」


「まぁ、治癒は毎日してたから、ある程度はできるけど……」



お金稼ぎのために、とは言わないでおく。



「今、騎士団には医者がいなくてな。もし、お前が手を貸してくれるなら助かるんだが。もちろん、力を貸してくれるのであれば部屋も与えるし、生活に不自由することはない。給料も出す」



そういう彼は、うつむいているせいで表情がわからない。



「でも、私をつれてきたのって貴方の一存なんでしょう? だったら勝手にそんなことしちゃ悪いんじゃ……」


当然の疑問だ。しかし、問題ないとばかりに彼は返答した。



「いや、その点は大丈夫だ。アリアが風呂に入ってる間に、了承はとってある」



行動早いのね!

私、まだやるなんて一言も言ってないですけど!


だけど――――これから何をしたらいいかもわからずにいるよりも、騎士団の医者として働いたほうが良いかもしれない。

それに、治癒は一番得意な魔術だ。



「私でよかったら、やらせてください」


「本当か?」


「え……えぇ。もちろん」



私の返事を聞くなり、彼は顔をあげる。そして満足そうにニヤリと笑った。

…………ニヤリ?



「言ったな? 逃げることは許さないぞ」


「え!?」



まるで、罠に捕まったうさぎの気分だ。

私としても相手としても、悪くない話をしていたはずなのに、一方的にやられたという感じがする。

















 それからすぐに、騎士団の訓練場に連れて行かれた。

広いこの訓練場には、白銀の甲冑を身にまとった男達が、槍や剣をぶつけ合う。平均年齢は25歳くらいだろうか。若い男が多いが、40歳くらいの人もちらほらと見える。


肩当てには王都騎士団の紋章である、神秘的なイラストが描いてある。二つの剣が交差している絵だそうだが、とてもそういうふうには見えなかった。良く言って植物が交差している絵だ。


私とフェノルが近づいてきたのに気づいた一人の男性が、こちらへ駆け寄ってきた。



「フェノル、おかえり」



かぶとを外すと、爽やかに言う。

中からは赤毛の混じった茶髪の少年が顔を出した。騎士団の中でも最年少……だろうか。

目元は優しく、微笑む表情は少し可愛らしい。彼が私のほうを見る。



「わぁ、すっごい美人。フェノル、どうしたんだい?」


「スラム街で、お前も見ただろう。放火犯に向かっていった少女だ」


「嘘!? え、じゃあ、まさか……」


「そう、そのまさか、だ。これほどの容姿だ。アリアがいるだけで無様な姿を晒せなくなるだろう?」


「逆に、治療してもらおうとわざと怪我する人も出てきそうだけどね」


「そんな奴は俺がツバをかけて放置しておいてやる」



全く、なんの会話をしているのかわからない。

フェノルは不敵な笑みを浮かべるし、もうひとりの男性は同情するような目でこちらを見てくる。



男の子をまじまじと見つめ返してしまったからか、彼は私の視線に気づき、天使のように微笑する。



「僕はルル・リビナ。ルルって呼んでよ」


「あ、えっと、私はアリア」


「よろしく、アリア。失礼だけど、年齢は?」


「15歳……」



唐突の質問に戸惑いながらも、答える。

するとルルは額に手をあて、苦笑した。



「あちゃー。10歳差かぁ。これじゃあ犯罪に近いレベルだね、困ったなぁ」


「え、10歳差って……」



まさか、5歳……なわけないわな。そう考えると彼は……



「25歳――――!?」



彼が童顔だからだろうか。私と同い年か2、3歳年上くらいかなぁ、とばかり思っていた。

まぁ、年なんてあまり関係ないよね、というルルに、フェノルが呆れながら言う。



「お前……一応これからうちの騎士団の専属になる女だぞ。やめておけ」


「えぇ、でも。15歳でこの容姿だったら、あと5年も経てば化けるよ!? 今のうちに捕まえておいたほうが、今後の男対策にもなるだろうし、いいとおもうけどなぁ」


「男がいたら士気が下がるだろう。それに、本人は全く理解してないぞ」



私のほうを見るフェノル。

えぇ、理解してなくてすみませんね。ルルが何の話をしているのかよくわかりませんよ。



しかし、ここで私が働くことになるのか。



そう思いながら、必死に手合わせをしている人たちを眺める。

熟練された動きを見せる人から、足元のおぼつかない、危なっかしい人まで、様々だ。


 この人たち全員を、団長であるフェノルが指揮していると言う。

私の役目は、怪我や病気を治すこと。また、騎士団が出動するときには大抵、一緒に行くそうなので、衛生管理も私の仕事となる。




これから大変そうだなぁ、と私はひとり呟いた。










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