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ザ・勘違い そのに

最近、内界(ないかい)の悪魔や魔物たちが僕がいる世界、

まあつまり中界(ちゅうかい)なんですけれど、で、気が触れたとしか言いようがないくらいに人を食すようになりました。


これほど大きな規模でのは過去の歴史として伝えられている大戦以降おこなわれてはいませんでしたから

事を重大と見たらしい「上」が僕の機関に依頼をしたんです。


今までそんなに出たことはないんですけどねえ。

ああ、そうそう、僕は「とある機関」の長、

『かしらだつもの』とでも言っておきましょうか。










~それいけ魔王様!~











『とある機関』の『かしらだつもの』は、機関の者のみが扱える内界へと繋がる道を使って、今まさに内界へ赴いていた。

眼前に広がる混沌とした景色に怯むことなく、むしろそれを逆手にとって闇に融け込んでいる。


一般的な人間であったらこの闇に呑み込まれても可笑しくなかったが、彼は常々部下から言われているように殊更一般的という領域からほど遠い場所にいたため悠々と気配を絶ちながら足を進めていた。

久々の内界だが、昔より大分治安も良さそうな光景以外、特に悪魔や魔物たちの変化も見られない。


そんな長閑と言っても良いくらいの町並みを抜けた。





****



「(あっさりと入れましたねえ・・・。)」



崖を望む大きな城の中に軽々と侵入できた彼は、久々に己の力量をはかれる最早千載一遇の機会だったのにと若干気落ちしたような溜息をついたが、

今度から己ではなく幹部に行かせれば良いことかと考え直し、壁をよじ登った先にあった庭で身を潜めていた。


魔王が住む城であるから警備網は完璧だろうと思っていたのにあまりに軽々と侵入でき、所詮こんなものか、と興ざめしうーんと伸びをした。




内界の雰囲気は大して彼にダメージも与えなかったが流石にこの噎せ返り吐き出したくなるような薔薇の甘ったるい臭いだけは精神的に彼を蝕んだ。

無臭な彼にとってこの臭いはただの毒としかならない。


とはいえ眉を顰めただけに終わらせ、さっさと事を終わらせようと欠伸をもらした。



警戒することもなくあまりに普段と変わらない様子であるが、そもそも『かしらだつもの』の彼は警戒なぞ必要なく全ては己の技量のみで大凡事足りていた。



――だからこそ彼は困惑したのだ




かつん、かつん、と軽い煉瓦を叩く小さな靴音を敏い耳が拾い上げ彼はゆっくりと俯いていた顔をあげた。


音の位置と気配から己との距離を冷静に弾き出す。

薔薇の影に隠れるようにして、僅かな草の間から幾分白けた眼をこらしていると、その音のもとをあえなく捉えた。



「(・・・これはこれは)」



今回、ここへ潜入した理由は、魔物の活発化に恐れを成した「上」から内界、特に魔王の様子を見てくるように言われたからだ。

足音を顰めることもせず、とはいえ彼は足音などさせぬのだが、隠れながら近づいていく。



「――・・・きっつ」


ふと届いた高い声に、おや、と眉を跳ねさせた。


「(おんな・・・?)」


ハッと顔をあげたその者の顔にはベールがかかって伺うことはできない。とはいえ声からして女に間違いはないだろう。


なんだ、噂の魔王じゃないんですねえ、と興味を失ったが、かさりとふいに吹いた風が草むらを揺らした瞬間からそれはすぐに興味へとかわり、また違う感情に呑み込まれた。



「・・・虫か」



低くもなく高くもない静かな声が空気を震わせた。女とも男ともとれぬ中性的な声音。


ただ一言の「虫か」という言葉。たったその一言でこの庭園にピンとした糸が張り巡らされた。先ほどとは真逆の苦しさ。



「害虫は処理しなくてはなるまい」



ベールで遮られた瞳は間違いなくこちらへと向けられている。

それは「気づいているかもしれない」という可能性だった。だが、可能性の域を出なかったそれは呆気なく頭を出した。


(・・・やはりこちらに、気がついている・・・っ?)


ぞわりと久しく肌が粟立った。遠い昔に経験したのみのそれは彼の琴線に無遠慮に触れたが、

あれから溢れ出す心当たりのある親しいそれに、うっすらと『かしらだつもの』は猛禽類のような酷薄な笑みを浮かべた。


研磨され鋭く突き刺さるような、けれど月の下の湖面が如く静かな冷たい殺気。こちらを本能的に震わせる殺意。

ゆるりと、彼は眼を細め赤い舌で渇いた唇を舐めた。



「(おやまあ。僕の早合点でしたね。こんな面白いのが此所にいただなんて。)」



彼には自負があった。

声から感情、反射、痛覚、本能に至るまでおよそ自分の全てを己が意思で操ることができる。

そしてこの世において己は恐怖の対象であり恐懼しうる者ではないという揺るがぬ自負が。




――だが、それをも見抜き嘲笑うような言葉にぴくりと身体が震えた。



「一体いつまで生きていられるだろうな・・・?」





ベールから覗く禍々しいまでの歪められた口角。いつでもお前如きの命など刈り取れる。見栄や意地ではなくただ純粋な余裕を彼は感じ取った。

相手に動く気配はない。ここは見逃してやると言うわけか。


「(・・・・・・これまで、ですかね。長居は無用です)」



彼女、いや彼が例の『魔王』に違いないだろう。

己の第六感とも呼べる勘も是と判断していることも材料の一つとして、「その」仮定を確信へと昇華させた彼は、自分の矜持をすぐさま捨て去り、風のように姿を消した。










――黒は黒だが、黒であるくせに異彩を放つ闇の黒。

伝えねばならないだろう、ありのままを。




ねえ「上」の連中さん。




「例え僕でも『魔王』を殺すのは流石に骨が折れますねえ。」





よくても相討ちにすらなりゃしない。


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