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ザ・勘違い そのいち


よく分からないが急に出た魔王さまの勅令、王令に従って侍女こと私は何時も通りの詰所の一部の部屋で白い布を繕っていた。いつもは穏やかな詰所なのだが、ぴんと張り詰めた空気が広がっている。


じわりと針を持つ手が汗に濡れ親指が滑った。


廊下を通る靴音なんていつもは気にしない筈なのだが、今日ばかりは嫌に耳につく。


胸を迫り上がってくる気持ち悪さを振り払うようにちくちくと針を持つ手を動かしていたその時だった。



御前にいらっしゃる魔王さまが、ゆるりと、嗤わ、れ、――


瞳が大きく見開いた。


ぞわりと背筋を這った悪寒に全身を絡め取られ、きゅ、と喉がつまり息が吸えなくなる。すらりと顔をあげる魔王さまに視界が急激に狭まり、私の世界の彩りが黒く染められた。


艶やかな黒髪が、肩を滑るその一本さえ見逃さぬといわんばかりに瞳が魔王さまのみを捉えその一動一静に全神経を集中させる。ひさしく感じていなかったが、これは、この感情は、




「あと少しだ。」




―――まさしく、純粋な恐怖。





耳朶をしとりと染める言霊に身体がさらに震え出す。


一度思い出してしまった感情にさらに私の「何か」が呑み込まれるのを感じ鋭歯を噛み締めようとするが、かちかちと耳障りに音を奏でるだけであった。震えた身体を守るように縮こまると


かたり、と椅子から立ち上がる音。


近づいてくる怖ろしいまでの、身の毛がよだつ、底の見えない延々と続く闇の源。


――・・・どろりとした、死の気配。



(誰か、誰か、だれかっ・・・!!)




眦に浮かんだ涙が頬を滑ろうとした瞬間に聞こえてきた軽やかな声音。



「いやーん、お邪魔しちゃってゴ・メ・ン・な・さ・い!あたしも入れていちゃいちゃします?」











~それいけ魔王さま! 他人視点~






俺は内界を牛耳る某総督の代行者として、魔王さまがおられる城でおこなわれる会議に参加している者だ。ま、いわゆる上級官職者ってことだな。


ちなみに今、俺はその会議が行われている会議室にいる。一番奥にいらっしゃる御方へと視線をゆっくりと向け、息を呑んだ。


窓から零れる月の光が魔王さまを照らし、そこだけが、この世界から弾かれているのではないかと錯覚するほどに神々しさを俺に刷り込ませる。


遠目で魔王さまを見たことはあったが、これほどまでに近くで垣間見たことがなかった俺は胸を静かに震わせた。この己を畏怖させる神聖さを持つ者が、魔の王であり、俺達を統べる御方。



「トレイターが死んだ」



しん、と低い声が張り詰めた空気をゆらし、部屋を静かに響かせた。


その高くもなければ低くもない声音は、俺を少なからず威圧した。いや、この場にいる者の全てが魔王さまの御声に威圧されたに違いない。



魔王さまの側近である銀が頷き立ち上がり、ことのしだいを述べる。



「まずは概要と経過をお知らせしましょう。先日真夜中トレイターが中界で勇者を名乗る人間に殺されました。勇者は不可思議な剣を使い黒魔法を相殺させたそうです。士官によれば、今勇者率いる一団は中界のヤパンジ国の北東部ツカイトウホを拠点にしているようです。」



その時だ、その時、魔王さまの纏う空気が変わった。



魔王さまに不躾ながらも視線を向けた先で見た、うっすらと、艶美な嗤いを作る端正な口元。


(思わず息を止めてしまう俺は、どうしようもなく弱い、のだろう)


だがしかし、この空気は。なんという怒り、なんという憤懣。



―――・・・なんという、闇の気配・・・!!




どくん、と心臓が跳ねた音が耳元でした。


この時、俺は悟ったのだ。

魔王さまがこの場に入られた瞬間から己の命は魔王さまの掌の上にあるということを。

生殺与奪は全て魔王さまの掌の上に。


圧倒的な魔王さまの闇に魅せられた俺は、こうして今日をもってして全身全霊をこめてお遣いさせて頂こうと初めて心の底から思ったのである。








(ザ・勘違い。)


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