どこの世界に勇者に勝つ魔王がいるんだよ!
まず、めったんめったんにしてぎったんぎったんにしたいこの世界の説明をするとしよう。
この世界は、天使が根をおろしている外界、人間が生活している中界、そして私がいる魔物の住処の内界の三つに分られている。まあ、簡単にいえば天界、人間界、魔界みたいなものだ。
そして三界は独立保全の為に互いの界域に侵入することを私が魔王さまになる前から強硬規範として禁止原則になっていた。むろん、私も銀から契約維持の是非を問う意思表示要求されたとき、それに異義を唱えることなく首を縦にふった。
つか、あたりまえだろバカかお前。嫌だ!なんていうと思ったのかこの銀野郎めが。平和主義者なめてんじゃねえぞ。と罵倒した。もちろん心の中で。顔にはおくびにもださない怖いから。
まあまあ、それでなのだが、最近になって六大悪魔のトレイターが殺られたそうである。しかも勇者に!!ここは素直に魔王らしく、・・・・・・夜逃げの準備をしよう。
あっ、白旗作ってねえ!
~それいけ魔王さま!~
魔王さまこと私は、下士官を部屋から追い出し、机に頭をつけながら盛大な溜息をついた。
ベール越しに見える赤い絨毯をぼんやりと把握して考察した。
えーっとまずは勇者が、現れただと?ふざけるなよ?RPGの王道知ってる?結局べらぼうにレベルアップしちゃってる勇者に魔王って倒されんだよ!!それで世界は救われた・・・。エンディングロール、以下スタッフ名。とかなっちゃうんだよ!!
「ねえ銀ッ、私なんかした!?なあんもしてないよねぇえええ!?超うっぜぇええ!!!!」
「私の耳に酷くストレスを与えるのでお気をお静めください魔王さま」
ダイナマイトが爆発する勢いで恨み辛みを捻りこませた呪詛を受けた銀に、華麗にひらりと回避され、言葉でカウンターパンチを食らわされた。ちなみに銀は用紙にまた羽ペンを滑らしている。
私は口を尖らせながらそっぽを向いて今朝のご飯をも吐き出しそうな深い溜息を吐いた。じゃないと今すぐ机を卓袱台のように引っ繰り返して逃げ出す。
それを銀の目の前でするわけにはいかない。怖いから。
この世界に召還された時は、散々逃げだそうとしてたなあ・・・。くっそ、なぜ銀が政務官かつ先導警士なんだ。クソ食らえって何度叫んだことか。
ハハハと、遠い目をして過去を思い出し、すい、と横にずらした窓から見える景色は相変わらず鬱蒼とした闇が広がっており、なかなか顔を覗かせない月にまた鬱々とした気分になった。
重々しい空気を霧散させようと頭をふって羽ペンを手にとった。用紙に目を通す。これは、前年度の内界における各地域の支出入の資料だ。
くっそ、めんどくさいな!なんで仕事してんだ六大州総督の連中。机の引き出しの中から内界地図を引っ張りだし机に叩きつけると銀がようやく用紙から顔をあげ私を見た。
なんだよ!喧嘩売ってんのか!受けてたつぞ銀髪!?
スチャとファイティングポーズをとって銀をボコボコにする。
・・・・・・・もちろん脳内で。
「今細部に至るまで調査させております。魔王さまがお気を割く必要はありませんよ」
「でもさあ、まじでセオリーがあんだって。魔王とかラスボスだよ?つまり私がラスボスだよ?バカじゃないの勇者!確実に弱い者イジメじゃん!!」
「確かに魔王さまは稀に見る弱さを誇りますが、何をそんなにも臆していられるのです」
呆れたとでもいうような声音に思わず声を荒げ、被っていたベールを剥いだ。
「だって銀知らないじゃん!どんだけこの世界がファンタジーでRPGチックなのなんて!!魔王に勇者って大分なキーワードだよ!?」
ぶすり、と眉間に濃い皺を寄せるが銀は見る気もないのだろう、彼は用紙を右から左へと黙々と移動させ、とんとんと机の上で一つに纏めあげた。
それに更に苛つくと、がたりと音がし、内界地図からゆるりと右前へと視線を向けると、銀色の髪を揺らしながら銀がこちらに背を向けていた。彼のつま先は扉の方へ向いている。
「今から各自治州総督を招集します。日にちが変わる頃には対策会議が催されるのでご了承下さい」
そうしてパタンと音をたてて無情にも扉は閉められた。
対策って言ってもな!
どこの世界に勇者に勝つ魔王がいるんだよ!