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語らいの裏で 続き※

蝋燭の先端がぷすりと音を立てて白い煙をくゆらせて転がっている。

そのなか、がらんころんと散らばった瓦礫を蹴飛ばしつつ銀は立ち上がった。


けほ、と一度 喉を整えつつも周囲にざっと視線を走らせる。



「これは驚いたな。自爆するとは」


「主、お怪我はございませんか?」


「あぁ。問題はない」



紅の前に立ちはだかる薄紅の手は腰元の刀に添えられており、かちんと鞘に刀が納まる。

爆発の一瞬で紅と男の間に滑り込み爆風を腰元の刀で相殺したのだろう。先導警士としての役目を果たしている。


紅の無事を確かめた薄紅は一歩下がり彼の後ろに控え、こちらを見た。



「貴殿は大丈夫か?」


「ええ。しいていうならこの牢屋が大丈夫ではありませんけど。工部に掛け合って直してもらうことをお勧めします」



ぱたぱたと外套を手持ち無沙汰に叩き、むわりと漂った鉄とアンモニアの噎せ返るような臭いに閉口した。


壁一面、四方八方に飛び散っている肉片。


銀はおもむろに足元にちぎれ飛んでいた肉片に人差し指をあて眼を閉じる。

指先から伝わる魔力。氷水のようなそれは指先を通って腕まで這い上がったと思ったらすぐさま霧散した。


チッ、と心のうちで舌打ちする。



「予想通りですがこの僅かな魔力では追尾は不可能です。ものの見事な自爆ですよ」


「自爆をするならもっと早くできた筈だ。そう考えると先ほどの男は魔術をかけられた方か?」



血の海のなか、誰も顔色一つ変えることなく推理をしていく様子は異用であったが魔族である彼らにとって血は忌むべきものではない。むしろその逆。心地よく感じるほどだ。とはいいつつ鼻をつく腐臭は我慢し難い。



「禁術を己にかける痴れ者など数名を除いて普通はいないでしょう。そして、自爆のキーワードは・・・」


「コロシアム、だな」


「ええ。コロシアムの内容に関する発言をすると魔術が自動で入るようにしてあったのでしょう」



冷めた眼で崩れ去った牢屋を見回し、肩口のコウモリの頭を優しくなでた。



「魔王先導警士内界最上級政務官、銀から魔王城研究所所長へ通達します。以上の映像を早急に検証し、報告して下さい」



そこまでいい手を離すと、肩口に止まっていた二匹のコウモリが同時に飛び立ち、薄暗い通路の奥に消えて行った。血に濡れた指先をこすりながら銀は背後を振り返って問うた。



「それで?あなたは何故そこにいるのですかコーラル」


「あれまー、バレてましたか」



声が響くと同時に牢屋の扉付近に、すとんと音を奏でず男が現れた。簡易な炎魔法で照らされた色はオレンジ色。珊瑚の、コーラル色。細かく何本も編み込まれた髪は一つにくくられている。


頬をかきながら「さすが銀の旦那ァ」とおどけたようにへらりと笑みを浮かべていたがサングラスの奧に隠された瞳は少しも笑んではいなかった。



「あなたには任務を与えていたはずです。任務放棄と受け取りますが良いのですか?」


「ちゃんと部下に任せてきましたってば。ていうか、そもそも魔王さまの先導警士は銀の旦那なんだからさー!」



減給だけはマジ勘弁!

コーラルは冗談半分に軽口を叩きながら足を踏みだし、紅の横を追い越そうとしたがその一瞬警戒の色を見せた薄紅に気がついたのか、一度目をぱちくりとさせつつも「お仕事お疲れさま」と肩を叩いてすり抜けていく。


そんな様子に銀と紅が人知れず眉を顰めたが気づかれる前にそれも解かれた。



「なにか問題でもあったのですか?」


「いーえ。まあ、あえて報告するならクルミっていう嬢ちゃんの部屋から自室戻りましたよってことぐらいですかね?ああ、あと魔王さまそろそろ休みあげた方が良いですよ」


「・・・そういう根拠は?」


「最近普通に歩いててもあっちにフラフラこっちにフラフラしてて本人気がつかないうちに身体にガタがきてんじゃないかと」


「人間という種族は私たちの想像以上に脆い。一度くらい休みを与えた方が良いかもしれんな」


「紅の尚書の言うとおりですよ。人間なんですから」



紅の賛同に頷きつつも、魔王の真似をしているのか、おどけたように千鳥足で足踏みをしながらの助言に紅尚書が言うのならばと銀も耳を傾けた。








*******





中界、とある栄えた街。宿屋にて。



太陽のような燃える赤色の彼はいた。勇ましい者を冠した彼である。その彼の隣を彼と同じ位の年かさの青年が些か興奮した調子で彼の顔を覗き込んだ。



「まっさか王さまから直々に依頼されるとは思わなかったなー」


「僕もだよ。支度金とかもらえるなんて思ってなかった」


「だよなー。とはいえ依頼が依頼だしなあ。まあ、ツカイトウホの勇者さまなら何とかなるってそりゃ思うだろうけどよ」


「なんども言ったけど、あれは僕だけの力じゃないよ。リョクや町の皆がいたからなんとかなったんだ」


「はは、謙虚だなセキ!」



けらけらと笑う緑色の髪の少年、リョクに彼、セキは苦笑いを零した。なんど言ってものらりくらりと爽やかに笑ってかわすリョクにセキは振り回され続けている。


相手が年下にも関わらず、だ。


街の出店で買ったパンにかぶりついた。瑞々しいサラダのあとからスパイシーな肉が顔を出し肉汁で口内を溢れかえさせ、あまりの美味しさにセキは顔を綻ばせる。



「魔物に囚われたお姫さまなんて、どうやって見つけりゃいいんだろうなあ」



ベットに腰掛けながらパンを食べつつリョクがそう零すとセキも顔をあげリョクを見た。真っ直ぐな赤色の瞳に、そういえば例のお姫さまとセキは許嫁だったっけか。王城で知ったセキの交友関係の広さに仰天したのを思い出し顔を顰めた。



「大丈夫。見つけてみせる」


「見たこともないくせに簡単に言うなあ」



指についたタレをぺろりと赤い舌で舐めとりながら軽口を叩くと心得ているのか、ふわりと笑ってみせた。


子どもを嗜めるような柔らかさに満ちたセキの笑顔に弱いリョクは一度肩をすくめパンの紙包みをくしゃりと丸めてゴミ箱にベットの上から放り投げる。


カーブを描いて見事に命中。



「あーはいはい、俺が悪かったって」


「なにが悪かったんだ~?」


「んあ?」



唐突に話に割り込んできた声の音源に、リョクが首を傾げた。セキも、もそもそと両手でパンにかぶりつきながら、きょとんととしたが、ぱあぁあっと顔を輝かせた。


彼らの視線の先には、扉にもたれかかった青年がいた。緩やかなパーマがかった茶髪が横に流されているが、二束ほど前髪が右目にかかっている。するりと形の良い鼻筋や垂れた眼など、女遊びな雰囲気を醸し出していたが見目は良かった。



彼は軽やかに部屋に足を踏み入れリョクの向かい側、つまりセキの隣へポスンと腰を降ろし笑った。



「ブラウンか!?」


「いやァ、久しぶりだなあ、トレイター倒した以降ぶり?」


「いやァ、久しぶりだなじゃねえだろうが!急に姿消しやがっでどこ行ってたんだよこの垂れ目!!ちょ、セキもなにほのぼの手ぇふってんだ!ああ、ほらこぼれた!」



もそもそと咀嚼しながら久しぶりだなとでもいうように片手でブラウンに手を振っていたセキを案外口煩いリョクは見逃さない。ツカイトウホの勇者となったのに驕らず相変わらずのセキの様子にブラウンは笑った。



「まあまあ騒ぐなって。俺たちは結局このあと魔物に攫われた姫さん助けに行かなきゃなんねえんだろ?なら情報集めにうってつけの良い場所がある」


「なんでブラウンがそんなこと知ってんだよ」


「いやあ、だてにふらふら流浪ってるわけじゃないからな。で、どうする?行くのか、行かないのか?」



胸をはって威張るブラウンにそういうことじゃねえんだけどと冷たい視線を送っていたリョクだったが、ブラウンのあっけからんとした態度に毒気を抜かれセキを顎でしゃくりブラウンの矛先を向けた。



「どうすんだセキ。リョクはアンタに従うみたいだぜ」


「もぎゅ もぐもぎゅぎゅ?」


「この街の地下だぜ」


「おまっ、今の分かったのか?」


「いや、勘だ!」


「勘かよ!!」



腹立たしさにブラウンのみぞおちに裏拳を叩き込むリョク。あっけからんと笑顔を浮かべてた二枚目ブラウンがごふっと奇声を発してるのを見下ろして「ふん」と鼻で笑うがパンを食べ終えたセキが口元をティッシュで拭きながら、へえ、ここの地下にあるんだ。と零す所を見ると、あながちブラウンの勘は外れていなかったことが分かる。



「それでブラウン、その情報集めにうってつけな場所が地下にあるってことは分かったけど、なんなのそこ?」


「い、異種族入り、乱れ・・・た闘技場、コロシアムだ」



パンの包み紙をゴミ箱へ捨てにいきながら、問うたセキに待ってましたといわんばかりに顔をあげてニカッと笑ったが、腹にきまった痛みによって引き攣った笑いになっていた。


見た目は女ったらしの二枚目に間違いないのに、中身はどこか可哀想なヤツなんだよなとリョクは思いつつブラウンを見下ろした。



「コロシアム?なんだそれ」


「さあ?俺もよく知らねーんだよな」



リョクに尋ねられたブラウンは知らねえとあっさり白旗を振ったが、でも、と続けた。



「ワインレッドが、今度そこの大会に六大悪魔が参戦するって言ってたぜ。だから結構の魔物やら人間やらが集まるらしい」


「はあ!?六大悪魔ってあのトレイターと同じくらい強いやつってことだよな・・・なんでそんな奴が参加するんだよ」


「まあ、俺らはそれを横目に集まってくる魔族連中に情報収集すりゃ良いってわけだ」



ぎょ、と目を見開き驚いているリョクに垂れ目がちな瞳をやんわり緩ませてからからと笑ってみせたブラウンにセキがベットに腰掛けた。



「いまほとんど手がかりがない状況だし取り敢えず、行ってみよう。そのコロシアムに」



前向きなセキの決断にブラウンがそうこなくっちゃ面白くねえな。と拳を握った反対側でセキが決めたなら俺はそれに従うだけだとリョクは頷いてみせた。





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