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「こっちは婚約破棄してやってもいいんだからな!」と事あるごとに言ってくるので、本当に婚約破棄を提案すると

掲載日:2026/06/25

「はぁ、授業めんどくさ。さぼろうかな」

「クルガン様、授業は出られませんと。教養が身につきませんよ?それにしっかり聞くと案外面白い物です」

「あのさぁ、俺そんなに意識高くないから。アリアっていちいち鬱陶しいよね。――あんまり面倒な事ばかり言うと婚約破棄するよ?」


 中庭のベンチで横並びに座っている時、クルガンはそう言った。

 彼のお決まりの台詞。私が何か意に添わない発言をするたび、婚約破棄をちらつかせてくる。わたしの家は男爵家、クルガンの家は伯爵家。嫁入りする形となるのだから、婚約破棄をされたらたまった物では無い。私は黙るしかなくなってしまうのだ。


「そんな事よりさぁ、クラスメイトのガリアーノ、何かムカつかね!?自分イケメンですよ、みたいなアピールがうざったいんだよなぁ!婚約者もいないくせに!お前もそう思うだろ!?」

「……いえ、誠実な方だと思いますけれど」

「ッチ。ノリ悪!そんなんだからお前はダメなんだよ。俺が婚約破棄したらその後貰い手なんて現れるわけないから。あー、婚約破棄してやろうかなー!」


 全く楽しくない会話。私の仏頂面に対して、クルガンは楽しそうにケタケタと笑っている。何が面白いのか全く分からない。

 友達の話とは大違いだ。メリッサなんて、いつも婚約者と楽しそうに手を繋いで歩いているし。クローディアなんて、婚約者と食事を食べさせあっていたし。なんだか他の人は楽しそうに婚約者と過ごしているのに、私は全然楽しくない。


「なー聞いてんの?」

「……」

「え?無視?やばくね?とうとう頭に加えて耳まで逝かれちゃった?」

「……」

「おーい。これ以上無視すると婚約破棄しちゃうよ?分かってんの?」

「――婚約破棄しましょう」

「……へ?な、何を言ってるんだ?あんまり面白く無い冗談は止めろよ!」

「冗談ではありません。婚約破棄をしましょう」


 私の発言にクルガンは目を白黒させる。


「お、お前、何言ってるのか分かってんのか!婚約破棄は家同士の取り決めだぞ!」

「分かっております」

「お前の家は男爵家だぞ!伯爵家との関係を断ち切るなんて、家に帰ったら怒られるどころじゃないんだぞ!?」

「分かっております」

「――じゃあ、今撤回するなら許してやろう。もちろん罰は与えるが、その方がましだろう?」

「撤回いたしません。婚約破棄しましょう」

「許すって言ってるだろう!――分かった分かった、罰も与えないからさぁ」

「婚約破棄しましょう」

「お前、何がしたいんだよ!何なんだよ!?はぁ!?何その目つき!?俺が悪いって言うのか!?第一、婚約破棄したところでこれからどうするんだよ!お前みたいな心も顔も不細工な奴、誰も嫁にもらってくれねーからな!」

「婚約破棄しましょう」

「さっきから婚約破棄婚約破棄うぜーよ!お前にはそれを言うしか能がないのかよ!」

「……その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ」

「はぁ?はぁぁ!?俺がいつそんなに婚約破棄って繰り返したんだよ!少しおふざけで言っただけじゃねーかよ!きも!あれを真に受けてたわけ!?ほんときしょいんだけど!?」

「きしょいのは君だよ。クルガン君」


 別の男性の声。私とクルガンは声のした方にハッと顔を向ける。ベンチに座っていた私たちの正面に、クラスメイトのガリアーノがいた。


「はぁ?お前は関係ないだろ!人の話に聞き耳なんか立てんなよ!お前もきしょいんだよ!」

「君が僕の悪口を言っているのが聞こえたからさ。きしょいのはお互い様だろ?――いや、訂正しよう。さすがに気持ち悪さで君に勝てるとは思えない。君がナンバーワンだよ。おめでとう」

「はぁ!?黙れよお前!今、こいつと大事な話してんだからよ!」

「まず女性に対して『こいつ』だの『お前』だの言っている神経が分からないな。分かりたくもないが」

「黙れって言ってんだろ!俺の婚約者をなんて呼ぼうと俺の勝手だろ!」

「おかしいな。聞いていた所、婚約破棄する話だと思っていたのだが」

「まだ俺が認めてねーだろうが!」

「しかし、その前に君から何度も婚約破棄をちらつかせていたじゃないか。――もしかして婚約破棄されると思ってなかったのか?アリア嬢が自分の物だと、どんなに雑に扱っても問題ないと、そう思っていたのか?」

「ち、ちげーから!ただ心配してやってるだけ。このままじゃこいつが生涯独り身になるだろ!こんな奴、また婚約出来るわけないんだからさぁ!」

「――つまり、アリア嬢に婚約者ができる可能性があれば、君は婚約破棄をすると」

「そうだけど、そんなのあり得ないだろ!だから俺は婚約破棄してやらないんだよ!」

「そうかそうか」


 ガリアーノはそう言って少し笑った後、私たちの前に、正確に言えば私の目の前にひざまずいた。そして私に右手を伸ばす。


「アリア嬢。君のまっすぐなその瞳が好きだ。さっき君に誠実な人だと言ってもらえて、とても嬉しかったよ。――横の男と婚約破棄した暁には、俺と婚約してくれないかい?」

「おい、お前何言って!?」

「――ぜひよろしくお願いいたしますわ」


 私はガリアーノの右手を左手でつかむ。ガリアーノはゆっくりと立ち上がる。隣でわめくクルガン。


「おい、何をしているんだ!俺の婚約者に」

「黙れ!今は私の婚約者だ。部外者は口を出すな!」


 普段大人しいガリアーノから発せられる、地面が震えるような大きな声。クルガンはへなへなとベンチに身を預ける。


「では行こうか」

「はい。これからよろしくお願いいたします。――クルガン様、今までお世話になりました。クルガン様こそ、いいお相手に巡り会えることを祈っておりますわ」


 私はそう言ってガリアーノに向き直り、彼の手に導かれるように歩いて行った。心なしか足が軽くて、心が軽くて、私は笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
とりあえず後日家を通じて正式に婚約の整理をしないと揉めますね
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