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冒険者をクビになった俺、 地味スキル《最短ルート検索》で ダンジョン配達員になったら最速でした

作者: 白昼夢
掲載日:2026/03/07




ダンジョン最速配達員

〜冒険者になれなかった俺の最短ルート〜




1



 冒険者になりたかった。


 子供の頃から、ずっとだ。


 巨大な剣を振るう剣士。

 雷を落とす魔法使い。

 ドラゴンを倒す英雄。


 そんな物語を聞くたびに、胸が熱くなった。


 だから十五歳で成人したとき、迷わず冒険者ギルドの門を叩いた。


 ――それが三年前。


 そして今。


「悪いなカイト。お前、もうパーティ外れてくれ」


 目の前に立つ男、剣士のロイドが申し訳なさそうに言った。


 酒場のテーブルの上には、今日の戦利品が並んでいる。


 魔石三つ。


 それだけだ。


「……俺が足引っ張ってるから?」


 聞くまでもないことを、口にしてしまった。


 ロイドは少しだけ目を逸らす。


「まあ……そうなるな」


 正直だった。


 それが余計に胸に刺さる。


「お前、戦えないだろ」


 横から槍使いのガルドが言った。


「剣もダメ、魔法もダメ。モンスター出たら逃げ回るだけじゃん」


「でも罠見つけるのは――」


「たまたまだろ」


 言葉を遮られる。


「それに罠役なんて、わざわざ雇うほどのもんじゃねえ」


 笑い声。


 酒場の他の冒険者たちもこちらを見ている。


 恥ずかしさで顔が熱くなる。


「悪いな」


 ロイドが金貨を一枚、テーブルに置いた。


「今までの分だ」


 それで終わりだった。


 パーティ解散。


 いや――


 俺だけが切り捨てられた。


 ギルドを出たとき、夜の風が冷たかった。


 王都の灯りは明るい。


 でも俺の未来は、真っ暗だった。


 三年間、冒険者として生きてきた。


 なのに残ったのは、剣一本と薄い財布だけ。


「……どうすんだよ、俺」


 呟いても、答える奴はいない。


 冒険者を辞める?


 でも他に何ができる?


 剣は弱い。

 魔法も使えない。

 体力も普通。


 ギルドの掲示板に貼られている依頼を思い出す。


 討伐。

 護衛。

 採取。


 どれも戦えないと話にならない。


「はは……」


 思わず笑いが漏れる。


「俺、何もねえじゃん」


 その時だった。


「おい、兄ちゃん」


 後ろから声がした。


 振り返ると、ギルドの裏口の方から中年の男が歩いてくる。


 見覚えがある。


 ギルドの雑務をしている男だ。


「さっきの見てたぞ」


「……恥ずかしいとこ見られましたね」


「まあな」


 男は肩をすくめた。


「でもな、ああいうのは珍しくねえ」


 冒険者の世界はシビアだ。


 役に立たない奴は切られる。


 それだけ。


「これからどうする?」


「さあ……」


 正直に答えた。


「冒険者しかやってこなかったんで」


「なら、うちで働くか?」


「え?」


 思わず聞き返す。


「ギルドの仕事だよ。雑用だけどな」


 雑用。


 その言葉に胸が少し痛んだ。


 でも――


 今の俺に断る理由なんてなかった。


「やります」


 男はにやっと笑う。


「即答か。いいね」


 そう言って、親指でギルドの裏口を指した。


「来いよ。ついでに面白い仕事もある」


「面白い仕事?」


「お前みたいな奴向けのな」


 俺はその時、まだ知らなかった。


 この選択が――


 俺の人生を大きく変えることになるなんて。



2



 冒険者ギルドの裏口は、表の賑やかな受付とはまるで別の場所だった。


 木箱が山のように積まれ、荷車が並び、汗と土の匂いが漂っている。


「ここがギルドの裏方だ」


 さっきの中年男――バルドが言った。


「表で英雄気取りしてる連中も、結局ここに世話になってんだよ」


 確かにそうだ。


 討伐したモンスターの素材。

 採取した薬草。

 ダンジョンから運び出された宝箱。


 全部ここを通る。


「まずは荷物運びだな」


 バルドは木箱を指差した。


「それを倉庫まで」


「はい」


 持ち上げると、見た目より重かった。


 中にはポーション瓶がぎっしり入っている。


 倉庫へ運び、戻る。


 また運ぶ。


 それを何度も繰り返す。


 単純な仕事だ。


 でも――


 不思議と嫌じゃなかった。


 冒険者のときは、いつも周りの視線が気になっていた。


 足手まとい。

 役立たず。


 そんな言葉が頭にこびりついていたからだ。


 でもここでは違う。


「そこ置いとけー」


「次こっち!」


 ただ仕事をすればいい。


 それだけだった。


 気が付くと、夜になっていた。


「おう、初日おつかれ」


 バルドが水袋を投げてよこす。


「ありがとうございます」


 冷たい水が喉を通る。


 体が生き返る感じがした。


「どうだ、裏方は」


「……悪くないです」


「だろ?」


 バルドは笑う。


「で、さっき言った面白い仕事なんだが」


 そう言って、壁に貼られた紙を指差した。


 そこには依頼書がいくつか並んでいた。


 討伐依頼でも採取でもない。


 見慣れない文字が書かれている。


 《ダンジョン配送依頼》


「配送……?」


「そのまんまだ」


 バルドは腕を組む。


「ダンジョンの中に荷物届ける仕事」


「え?」


 思わず変な声が出た。


「ダンジョンって……モンスターいる場所ですよね」


「当たり前だろ」


「そこに荷物?」


「回復薬とか、食料とかだな」


 言われてみれば、確かに必要だ。


 ダンジョン探索は長時間になることも多い。


 途中でポーションが切れたら、命に関わる。


「でも、それって冒険者がやるんじゃ……」


「普通はな」


 バルドは苦笑した。


「でも最近は探索が深くなりすぎてな。補給が必要になる」


「それで配達員……」


「そういうこと」


 なるほど。


 理屈はわかった。


 でも。


「……誰もやりたがらないんですか?」


 バルドは一瞬だけ黙った。


 そして、ぽつりと言う。


「まあな」


「危険だから?」


「それもある」


 彼は依頼書を指で叩いた。


「でも一番の理由は――」


「?」


「儲からない。」


 思わず目を瞬いた。


「危険なのに?」


「そう」


 バルドは肩をすくめる。


「モンスター出るわ、罠あるわ、迷路だわ」


「……」


「でも報酬は討伐より安い」


 そりゃ誰もやらない。


「じゃあ、配達員ってほとんどいないんですか?」


「今いるのは二人だけだ」


「二人……」


「しかもベテラン。新人なんて来ねえ」


 バルドはニヤリと笑った。


「どうだ?」


「え?」


「やってみるか?」


 ダンジョン配達員。


 危険。

 儲からない。

 誰もやりたがらない仕事。


 普通なら断る。


 でも――


 俺は三年間、冒険者だった。


 ダンジョンの中を歩くことだけは慣れている。


 それに。


 今の俺には選べる仕事なんてない。


「……やります」


 バルドの眉が少し上がった。


「本当にいいのか?」


「はい」


 俺はうなずく。


「どうせ冒険者としては役立たずですし」


「配達なら役立つかもしれません」


 しばらく沈黙。


 そしてバルドは、豪快に笑った。


「ははは! いいじゃねえか!」


 壁から一枚の依頼書を剥がす。


「じゃあ早速だ」


 それを俺に渡した。


 内容を読む。


 依頼主:銀狼の牙パーティ

 配送物:回復ポーション三本

 目的地:ダンジョン第五層


「……第五層?」


「初仕事にしては軽いだろ」


 バルドは言う。


「成功すれば正式な配達員だ」


 依頼書を握りしめる。


 胸が、少しだけ高鳴った。


 もしかしたら。


 本当に――


 俺にもできる仕事があるのかもしれない。


 だがその時、俺はまだ知らなかった。


 この依頼が。


 俺の人生最初の“大事件”になることを。





3



 翌朝。


 俺はダンジョン入口の前に立っていた。


 王都の外れにある、巨大な石造りの門。


 その奥には、地下へ続く暗い通路が口を開けている。


 ここが――王都ダンジョン。


 冒険者なら誰もが一度は潜る場所だ。


 俺も三年間、ここで戦ってきた。


「懐かしいな……」


 思わず呟く。


 その時だった。


「おい、見ろよ」


「新人配達員じゃね?」


 後ろから笑い声が聞こえた。


 振り返ると、装備の整った冒険者たちがこちらを見ている。


「マジでやる奴いるんだ」


「危険なだけで儲からないのに」


「雑用の極みだな」


 くすくすと笑われる。


 胸の奥が少しだけ痛む。


 でも――


 怒る気にはならなかった。


 だって、昨日までの俺も同じことを思っていたからだ。


 配達員なんて、冒険者の下。


 そう思っていた。


「……行くか」


 俺は荷袋を背負い直す。


 中にはポーション三本。


 それだけ。


 でも、これが今日の仕事だ。


 ダンジョンの中へ足を踏み入れる。


 ひんやりした空気が肌を撫でた。


 石壁。


 湿った土の匂い。


 遠くから聞こえるモンスターの唸り声。


 全部、覚えている。


「第一層は……スライムだけだったな」


 通路を進む。


 角を曲がる。


 少し進むと――


 ぷるん。


 青い塊が床で震えていた。


 スライム。


 ダンジョン最弱のモンスターだ。


「……」


 正直、戦いたくない。


 剣を抜くのも面倒だ。


 俺は壁沿いにゆっくり歩く。


 スライムはのろのろ動くだけ。


 そのまま通り過ぎた。


「戦う必要ないしな」


 配達員の仕事は戦闘じゃない。


 荷物を届けることだ。


 だから無駄な戦いは避ける。


 それが一番安全だ。


 しばらく進むと、階段が見えた。


 第二層への入口。


 順調だ。


「……ん?」


 その時、違和感を覚えた。


 頭の奥で何かが引っかかる。


 視界の端に、ぼんやりと線のようなものが見えた。


「なんだ……?」


 床を見つめる。


 そこには――


 細い糸。


 ダンジョンの罠だ。


「危な……」


 思わず後ろに下がる。


 踏んでいたら、天井から槍が落ちてくるタイプの罠だ。


「よく気付いたな、俺」


 しゃがみ込み、罠を避けて通る。


 でもその時、また違和感があった。


 頭の中に、妙な感覚が浮かんでくる。


 まるで――


 道が見えているみたいだった。


「……?」


 通路を見る。


 すると。


 右に進む道。


 左に曲がる道。


 奥へ続く道。


 その中で――


 一つだけ、なぜか「行くべき道」がわかる。


「なんだこれ……」


 体が自然に動く。


 その道へ足が向いた。


 しばらく歩く。


 するとまた罠があった。


 でも今度は、最初からわかっていた。


 そこに罠があると。


「もしかして……」


 頭の中に浮かぶ言葉。


 スキル。


 冒険者には時々、特別な能力が発現する。


 俺にも一つだけあった。


 でも今まで、役立ったことはなかった。


 ステータスを思い浮かべる。


 脳裏に文字が浮かぶ。




――――――――――

スキル:

《最短ルート検索》

――――――――――




「……これか?」


 今まで意味がわからなかったスキル。


 でも今なら、少しだけ理解できる。


 もしかしてこれは――


 目的地までの安全な道を教えてくれる能力?


 その時だった。


 遠くから、叫び声が聞こえた。


「うわああああ!!」


 人の声。


 しかも複数。


 戦闘音も混ざっている。


「……?」


 嫌な予感がした。


 ここはまだ第二層のはずだ。


 こんな場所で悲鳴なんて。


 頭の中で、スキルが反応する。


 視界の奥に。


 一本の道が、はっきりと浮かび上がった。


 まるで――


 **「こっちに行け」**と言っているように。


「……まさか」


 俺は小さく息を吐いた。


 そして走り出す。


 荷物を揺らしながら。


 その先に待っているものも知らずに。




4



 叫び声の方向へ走る。


 ダンジョンの通路は入り組んでいる。


 本来なら迷いやすいはずだ。


 でも今は違った。


 頭の中に、はっきりと一本の道が浮かんでいる。


 まるで誰かが地図を描いてくれているみたいだった。


「こっちだ……!」


 曲がり角を曲がる。


 通路を抜ける。


 そして――


 広い空間に飛び出した。


「うわあああ!!」


 そこでは、三人の冒険者がモンスターに囲まれていた。


 ゴブリンだ。


 小柄だが凶暴なモンスター。


 しかも五体。


 剣を持ったゴブリンが、じりじりと距離を詰めている。


「くそ……ポーションがもうない!」


 盾を構えた男が叫ぶ。


 どうやら前衛らしい。


 その後ろで、弓使いの女が矢を放つ。


 一本、ゴブリンに刺さる。


 でも数が多い。


「下がれ!」


 ゴブリンが突っ込んできた。


 盾の男が受け止める。


 しかし――


 後ろからもう一体。


「危ない!」


 気付いた時には、体が動いていた。


 俺は荷袋を開き、ポーション瓶を取り出す。


「ポーション!」


 全力で投げた。


 瓶が弧を描き、盾の男の足元に落ちる。


 カラン。


「……は?」


 男が一瞬固まる。


 でもすぐに理解したらしい。


「ポーションだ!」


 弓使いが叫ぶ。


 男はすぐに瓶を拾い、飲み干した。


 傷口の光が広がる。


 回復。


「助かった……!」


 その隙に、男は剣を振るった。


 ゴブリンの首が飛ぶ。


 もう一体。


 弓使いの矢が目に刺さる。


 残りのゴブリンは、仲間の死体を見ると後退した。


 数秒後。


 洞窟には静寂が戻る。


「はぁ……はぁ……」


 三人の冒険者が息を整えている。


 そして――


 一斉に俺を見た。


「……誰だ?」


 盾の男が言う。


 俺は荷袋を持ち上げた。


「ダンジョン配達員です」


 沈黙。


 そして弓使いが目を丸くする。


「配達員?」


「ポーションの配送依頼で」


 依頼書を見せる。


 男が受け取り、確認する。


「銀狼の牙……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 後ろの仲間が声を上げた。


「それ俺たちだ!」


「マジかよ……」


 三人は顔を見合わせる。


「助かった……」


 盾の男が深く息を吐いた。


「さっきの戦闘でポーション全部使い切ってな」


「このままだと撤退もできなかった」


 弓使いも頷く。


「配達員なんて来るとは思ってなかった」


 俺はポーションを残り二本渡した。


「依頼の分です」


「ありがとう……」


 男は真剣な顔で受け取る。


 そしてふと、首を傾げた。


「でもなんでここが分かった?」


「え?」


「俺たち、罠に引っかかって予定ルート外れてたんだ」


 つまり。


 普通ならここには来ないはずだった。


「……」


 俺は少し考える。


 スキルのことを説明するべきか。


 でも自分でもまだよく分かっていない。


「たまたまです」


 とりあえずそう答えた。


 三人は顔を見合わせる。


 そして笑った。


「はは、運がいいな」


「いや本当に助かった」


 弓使いが俺を見る。


「配達員ってすごいのね」


 その言葉に、少しだけ胸がくすぐったくなった。


 でもその時。


 頭の奥で、スキルが反応した。


 ぞくり、と背筋が震える。


「……?」


 視界の奥。


 新しい道が浮かび上がる。


 しかも――


 この部屋の奥へ続いている。


「おかしいな……」


 小さく呟く。


「どうした?」


 盾の男が聞く。


 俺は奥の暗闇を見る。


 スキルが強く反応している。


 まるで。


 何か大事なものがあるみたいに。


「……ちょっと奥、見てきます」


「え?」


 弓使いが驚く。


「そっちは未探索よ?」


「すぐ戻ります」


 自分でも理由は分からない。


 でも――


 行かなきゃいけない気がした。


 俺は暗い通路へ歩き出す。


 そして数分後。


 その先で。


 俺は“それ”を見つけた。


 岩に囲まれた小さな空間。


 中央にあるのは――


 黒い卵だった。




5



 岩に囲まれた小さな空間。


 その中央に――


 黒い卵があった。


「……なんだこれ」


 思わず呟く。


 大きさは人の頭くらい。


 表面は黒い鱗のような模様で覆われている。


 普通のモンスターの卵とは明らかに違った。


 というか。


「ダンジョンで卵って……」


 あまり聞いたことがない。


 モンスターは基本的に湧くものだ。


 生まれるわけじゃない。


 なのにこれは、どう見ても“卵”だった。


 しかも。


 頭の奥でスキルが強く反応している。


 まるで――


 ここが重要な場所だと言っているみたいだった。


「……触ってもいいのか?」


 少しだけ近づく。


 すると。


 ピシ。


「……え?」


 小さな音がした。


 卵の表面に、細いひびが入っている。


 嫌な予感がした。


「まさか……」


 その時。


 ダンジョンの奥から、低い唸り声が響いた。


 グルルルル……


 背筋が凍る。


 明らかにゴブリンとは違う。


 もっと大きくて、危険な存在。


「……まずい」


 反射的に周囲を見る。


 逃げ道。


 その瞬間、スキルが反応した。


 視界の奥に道が浮かぶ。


 入口方向。


 でもそれだけじゃない。


 もう一つ。


 この卵を通るルート。


「……は?」


 意味が分からない。


 でも考えている時間はなかった。


 重い足音が近づいてくる。


 ドシン。


 ドシン。


 巨大な影が通路の奥から現れた。


「うそだろ……」


 それは――


 リザードマンだった。


 トカゲの頭をした大型モンスター。


 しかも鎧を着ている。


 第二層に出るような敵じゃない。


 完全に階層外の存在だ。


「なんでこんなとこに……!」


 リザードマンは黄色い目で俺を見る。


 そして――


 ゆっくり口を開いた。


 鋭い牙。


 よだれ。


 明らかに敵意。


「……やばい」


 俺は戦えない。


 剣を握っても勝てる相手じゃない。


 逃げるしかない。


 でも。


 後ろを見る。


 卵。


 その時だった。


 ピシッ。


 またひびが入った。


「今!?」


 思わず声が出る。


 卵の中で何かが動いている。


 まさか本当に――


 その瞬間。


 リザードマンが咆哮した。


「ガアアアアッ!!」


 突進してくる。


「うわああ!」


 俺は反射的に卵を抱えた。


 思ったより軽い。


 そのまま全力で走る。


 スキルが道を示す。


 右。


 曲がる。


 罠を飛び越える。


 通路を抜ける。


 後ろから重い足音。


 リザードマンが追ってくる。


「なんで追ってくるんだよ!」


 たぶん――


 この卵のせいだ。


 リザードマンは明らかに卵を狙っている。


 もしかして守っていたのか?


 それとも食べるつもりだったのか。


 どっちでもいい。


 今はとにかく逃げるしかない。


 通路を駆け抜ける。


 スキルが次の道を示す。


 左。


 直進。


 階段。


 その時。


 腕の中の卵が――


 ガタッ


 揺れた。


「え?」


 次の瞬間。


 パキッ。


 卵の殻が割れた。


 そして。


 中から、小さな頭が出てきた。


 黒い鱗。


 金色の目。


 小さな翼。


「……え」


 思わず足が止まりそうになる。


 それは――


 小さなドラゴンだった。


「キュイ?」


 小さな声。


 その金色の目が、まっすぐ俺を見る。


 そして。


 ひょい、と俺の肩に登った。


「キュイ!」


 まるで。


 最初からそこが自分の場所だったみたいに。


 その瞬間。


 後ろからリザードマンの怒号が響く。


「ガアアアアア!!」


 どうやら本気で怒っているらしい。


「……マジかよ」


 俺は息を吐いた。


 肩の上の小さなドラゴンを見る。


 そして――


「とりあえず逃げるぞ!」


「キュイ!」


 一人と一匹。


 ダンジョンの通路を全力で駆け抜けた。




6



「はぁっ……はぁっ……!」


 通路を全力で走る。


 背中の荷袋が大きく揺れ、肩で息をする。


 その間も、後ろから重い足音が追ってきていた。


 ドシン。

 ドシン。

 ドシン。


 リザードマンだ。


「なんであんな速いんだよ……!」


 振り返らなくてもわかる。


 あいつは大型モンスターのくせに、異常に足が速い。


 このままじゃ追いつかれる。


 その時。


 頭の奥でスキルが強く反応した。


 視界の中に、道が浮かび上がる。


 右。


 すぐ曲がれ。


「こっち!」


 角を曲がる。


 すると床に細い糸が見えた。


 罠だ。


 でもスキルのおかげで位置がはっきり分かる。


 軽くジャンプ。


 着地。


 すぐ走る。


 後ろで。


 ガチン!


 金属音が響いた。


 振り返ると、リザードマンが罠を踏んでいた。


 天井から槍が落ちている。


 でも――


「くそ、効いてない!」


 鎧に弾かれている。


 さすがに一撃じゃ倒れない。


 でも。


 少しだけ足止めにはなった。


「よし!」


 その隙に距離を取る。


 走る。


 走る。


 走る。


 肩の上の小さなドラゴンが、しっかりしがみついていた。


「キュイ!」


「落ちるなよ!」


「キュイ!」


 元気だなこいつ。


 怖くないのか。


 その時、前方に分かれ道が見えた。


 三つの通路。


 普通なら迷うところだ。


 でも――


 スキルが示す。


 真ん中。


 迷わず走る。


 すると通路の奥に光が見えた。


 広い空間だ。


 そこに――


「おい!」


 声が聞こえた。


 盾を持った男。


 弓使いの女。


 さっき助けた冒険者パーティだった。


「戻ってきたのか!」


「しかもなんか抱えてる!」


「いやそれドラゴンじゃない!?」


 三人が一斉に叫ぶ。


「説明は後!」


 俺は叫び返した。


「リザードマン来る!」


「は!?」


 その瞬間。


 通路の奥から巨体が飛び出してきた。


 リザードマン。


「マジかよ!!」


 盾の男が慌てて剣を抜く。


「第二層にこんなの出ねえぞ!」


「戦うな!」


 俺は叫ぶ。


「逃げる!」


「逃げるってどこへ!?」


 その時。


 スキルが反応した。


 頭の中に、はっきりとした道が浮かび上がる。


 階段。


 第三層への入口。


 でも。


 その手前に――


 崩れかけた岩場。


 俺は一瞬で理解した。


 あそこを通ればいい。


「こっち!」


 走る。


 三人も後ろをついてくる。


 リザードマンが咆哮する。


 距離が詰まる。


「追いつかれる!」


 弓使いが叫ぶ。


「大丈夫!」


 俺は岩場へ飛び込んだ。


 細い通路。


 人がやっと通れる幅。


 スキルが示している。


 ここが最短ルート。


 俺たちは一列で走る。


 後ろからリザードマンが突っ込んでくる。


 だが――


 巨体が岩に引っかかった。


「ガアアア!!」


 狭すぎるのだ。


 鎧と体が岩に挟まる。


「今だ!」


 俺たちは一気に距離を取った。


 広い通路に出る。


 その奥には。


 ダンジョン入口へ続く階段があった。


「助かった……」


 盾の男が膝をつく。


 弓使いも壁にもたれる。


「死ぬかと思った……」


 俺も息を整える。


 肩の上のドラゴンが鳴いた。


「キュイ」


 その声を聞いて、三人が改めてこちらを見る。


「……なあ」


 盾の男が言った。


「それ」


 指差す。


「ドラゴンだよな?」


 俺は肩の上を見る。


 小さな黒いドラゴン。


 金色の目。


 そして。


 なぜか俺の服をしっかり掴んでいる。


「……たぶん」


 そう答えるしかなかった。


 弓使いが呟く。


「配達員って……ドラゴン拾う仕事だったの?」


「いや違うと思う」


 俺もそう思う。


 でも。


 小さなドラゴンは、嬉しそうに鳴いた。


「キュイ!」


 まるで。


 これからも一緒だよと言っているみたいに。




7



 ダンジョンの入口を抜けると、王都の朝の光が眩しかった。


 背中の荷袋と肩の上の小さなドラゴン――ピックと呼ぶことにした――を確認する。


「ふぅ……やっと戻れた」


 俺は深く息をついた。

 三人の冒険者パーティも無事だ。


「ありがとう、本当に助かった」


 盾の男が深く頭を下げる。


「いや、俺は……ただ荷物を届けただけです」


 言葉に詰まる。

 実際、俺がやったのは走ってスキルに従っただけだ。

 でも、彼らにとっては命を救ったのと同じだった。


 弓使いの女がピックを指差す。


「それ……本当にドラゴン?」


 小さな黒いドラゴン、ピックは肩でくるくると回っている。

 尾を揺らして、まるで楽しそうだ。


「……ええ、たぶん」


 その場で首をかしげる俺に、冒険者たちは笑った。


「いやー、初めて見るタイプの配達員だな」

「俺たちも勉強になったわ」


 三人の言葉を聞きながら、俺は心の中で少し笑った。


 冒険者を諦めて、配達員になった自分。

 その選択が、まさかこんな形で役に立つとは。




 ギルドに戻ると、バルドがこちらを待っていた。


「おう、どうだった?」

「無事に届けられました」


 依頼書を手渡す。

 バルドは依頼内容を確認すると、目を見開いた。


「おいおい……第五層でリザードマン相手に荷物届けたのか」

「はい」

「しかもドラゴンまで拾ってきた……!?」


 バルドは手を叩き、笑った。


「お前、ただの雑用新人じゃないな!」

「いや、まだ……」


 肩の上のピックが小さく鳴く。


「キュイ!」


 まるで、「もっとできるよ」と言っているみたいだ。


 その日、ギルドでは噂が広まった。


「第五層まで荷物届けた新人がいるらしい」

「しかもドラゴン連れて帰ってきたって?」


 俺の名前が、少しだけ冒険者たちの間で広がる。

 もちろん、まだ雑用扱いだ。

 でも、評価は確実に変わり始めた。




 夜。ギルドの倉庫で荷物整理をしていると、ピックが肩から降りて地面を歩き出した。


 小さな火花をパチパチと足元で散らす。

 まるで探検の準備をしているかのようだ。


「……わかった」

「お前も、この仕事気に入ったんだな」


 俺は微笑んで言う。

 そして倉庫の窓から外を見る。

 夜空に浮かぶ月。


 この街も、ダンジョンも、まだまだ冒険は続く。


 だが、今は──

 配達員として、最初の一歩を踏み出した日。


 肩の上のピックが小さく鳴く。


「キュイ!」


 俺たちのチームが、ここから始まることを告げているみたいだった。




 こうしてカイトは冒険者を諦め、

 ダンジョン配達員としての人生を歩み始めた。


 まだ誰も知らない、

 最速配達員の伝説がここから始まる――




8



 ギルド内の掲示板に新しい依頼が貼られた。


「次の配達か……」


 肩の上でピックが小さく鳴く。


「キュイ!」


 まるで「楽しみだね」と言っているみたいだ。


 今回の依頼は第三層。

 前回より少し深い階層だが、距離は短め。

 荷物は魔法の巻物二本と回復ポーション三本。


「よし、いくぞ」


 カイトは荷袋を背負い直し、ダンジョンへと足を踏み入れた。

 ピックは肩でくるくる回りながら興奮している。




 第三層は静かだった。

 だが、油断はできない。

 モンスターの気配があちこちで感じられる。


 スキル《最短ルート検索》が頭の中で反応する。

 進むべき通路が浮かぶ。

 罠も、落とし穴も、全てスキルが教えてくれる。


「便利な能力だな……」


 思わず呟く。

 冒険者時代なら無駄だと思っていたスキル。

 でも配達員として使うと、まさに必須だ。




 途中、分岐の先で小型モンスターの群れに遭遇。

 スキルが指し示すルートを選ぶと、モンスターを避けながら安全に通れる。

 戦わずに進めるのは大きな利点だ。


 ピックは小さな翼を羽ばたかせ、体を少し浮かせて先行する。

 「キュイ!」

 安全な道を確認してくれているかのようだ。




 依頼先に到着すると、探索者の魔法使いが待っていた。


「おお、配達か!」

「はい、依頼通りです」


 荷物を渡すと、魔法使いは感謝の笑顔を見せた。


「君、配達員なのにダンジョンの道を完璧に知ってるね」

「ええ、まあ……」

 頭の奥で、スキルが微かに反応するのを感じた。


 ピックが小さく鳴く。

 「キュイ!」

 まるで「僕たちの仕事、成功だね!」と言っているみたいだ。




 帰路も順調だった。

 第三層から第二層を経て第一層まで、スキルの導きで最短ルートを走る。


 途中、ギルドの他の配達員とすれ違った。

 新人らしい小柄な女冒険者だ。

 ちらりとこちらを見る。


「おお、先輩か!」

 声をかけると、彼女も笑顔で返す。


 こうして、カイトは正式に配達員として認められ、ギルド内での存在感が少しずつ増していった。


 肩の上のピックも、すっかり配達の相棒として馴染んでいる。


「次はもっと難しい階層か……」


 カイトは荷袋を整理しながら、少し笑った。

 ダンジョン配達員としての人生は、これからが本番だった。




9



 ギルドに戻ると、次の依頼が届いていた。


 今回は第四層――深層にある魔導塔への配達だ。

 荷物は希少な魔法薬と巻物、重量は少なめだが、モンスターの強さが段違いだという。


「深層か……これは本番だな」

 肩の上のピックが小さく羽ばたく。

「キュイ!」

 まるで「準備は万端!」とでも言っているかのようだ。




 第三層を越え、第四層に入った途端、空気が変わった。

 冷たく、重い空気。

 岩の色も暗く、光を吸い込む。

 モンスターの気配も濃くなる。


 スキル《最短ルート検索》が光を帯びるように反応する。

 道筋だけでなく、危険度まで示してくれる。

 矢印の色が赤くなる部分は、戦闘必至を意味している。


 慎重に進むと、突然、通路に影が動いた。

 大きなゴブリンよりも大きく、鎧を纏ったハーピーの群れ。

 矢を放ってきた。


「まずい!」

 荷袋で巻物を守りながら、ピックを肩から飛ばす。

 小さな体だが、火のブレスを小さく放ち、ハーピーたちを威嚇する。


 モンスターが後退した隙に、スキルが示す通路を全力で駆け抜ける。

 まるで道が光っているように見え、迷うことはない。




 塔の入口にたどり着くと、魔導士が待っていた。

 彼は年配だが、目が鋭く、こちらを観察している。


「おや、君が配達員か」

「はい、依頼通りです」

 荷物を渡すと、魔導士は荷物を確認し、頷いた。

「見事だな。君のような配達員がいれば、探索も随分楽になるだろう」


 その言葉に、自然と笑みがこぼれる。

 ピックも肩で小さく鳴く。

「キュイ!」

 初めての深層配達は成功だ。




 帰り道、第四層の奥で何者かと遭遇する。

 同じく配達員らしい人物。

 鎧を着た男性で、肩には小型の魔獣――手のひらサイズのピクシリスがちょこんと乗っている。


「おい、新入りか?」

 彼は笑みを浮かべ、挑戦的な目を向ける。

「俺のルートを使えば、もっと速く、安全に戻れるぞ」


 なるほど、ライバルか。

 カイトも自然と身が引き締まる。

 配達員としての競争――この世界では戦闘以上に重要なスキルになるかもしれない。


 肩の上のピックが羽を広げ、俺の顔を見上げる。

「キュイ!」

 まるで「負けるわけにはいかないね」と言っているかのようだ。


 ギルドに戻るまで、次の深層配達はこのライバルとの駆け引きになるだろう。




10



 ギルドの掲示板に並ぶ依頼の中、俺とピックは最後の任務を選んだ。


 深層第五層――報酬も危険度も最高ランクの依頼だ。

 肩の上のピックが小さく羽ばたく。


「キュイ!」

 その声に背中を押され、俺は決意を固めた。




 第三層、第四層を抜け、ついに第五層の入り口。

 冷気が全身を包み込む。

 周囲の岩肌は黒く濡れ、光をほとんど反射しない。

 モンスターの気配も強く、咆哮が遠くから響く。


 すると――


「おい、新入り!」

 先ほどのライバル配達員が現れた。

 肩にはピクリシス。俺と同じように、相棒を連れている。


「今日は負けないぞ」

 挑戦的に笑う彼に、俺も自然と笑みを返す。


「こちらも負けません」


 ドラゴンのピックが小さく鳴く。

「キュイ!」

 まるで「任せて!」と言っているようだ。




 第五層は通路も複雑で、罠も多い。

 スキル《最短ルート検索》が光り、進むべき道を教えてくれる。

 ライバルも自信満々に進むが、罠の感知が少し遅れた。


「チャンスだ!」


 俺とピックは道を外さず、障害物を避けながら進む。

 途中、ハーピーやゴブリンの混成群に遭遇するが、ピックの小さな火炎と俺のスキルで安全に回避。




 ついに依頼先の魔導士の元に到着。

 荷物を手渡すと、魔導士は目を見開いた。


「おお、君たちか!」

「今回の依頼は危険だっただろう?」

 頷く俺。


 ピックは肩で小さく鳴く。

「キュイ!」

 魔導士もその姿に微笑んだ。




 帰り道、ライバルが肩のピクシリスと共に到着。

 俺たちより少し遅かった。


「くそ……速かったな」

 ライバルが悔しそうに言う。

「スキルと相棒の力だ」

 俺は淡々と答える。


 ギルドに戻ると、噂が広がっていた。


「第五層配達成功か!?新人がドラゴン連れて!」

「配達員の新しい伝説だな」


 バルドが満足そうに頷く。

「これで、正式に君は“最速配達員”だ」


 俺とピックは肩を見合わせ、小さく笑った。


「キュイ!」

「これからもよろしくな」


 こうして、カイトは冒険者を諦め、

 配達員としての人生を完全に確立した。


 ダンジョン配達員――

 それは危険で、時に命を懸ける仕事。

 だが、俺にとっては冒険者以上に充実した道だった。


 肩の上のピックが小さく火花を散らし、夜の王都の空を見上げる。


「次はどんな依頼が来るんだろうな」


 俺は荷袋を背負い直し、胸を張った。

 最速配達員としての新しい日常が、ここから始まる――



最後までお読みくださり、ありがとうございます。


今後の励みになりますので、ブックマーク・評価・いいねなどしていただけると嬉しいです。


※補足情報※



――簡易魔獣図鑑―――


■ピクシリス

分類:小型魔獣(リス系)

大きさ:手のひらサイズ


ダンジョン周辺の森などに生息する小型魔獣。

外見はリスによく似ているが、尾の先端が淡く光るのが特徴。


この尾には魔力感知能力があり、毒・罠・魔力反応などの危険が近づくと微弱に発光する。


戦闘能力はほぼないが、危険察知能力の便利さから

冒険者や配達員の相棒として連れている者も多い。


性格は好奇心旺盛で、人に懐きやすい個体もいる。


■ピック(アストラルドレイク)

分類:古竜系小型種(極めて希少)

大きさ:肩乗りサイズ


星竜種の血を引くとされる極めて珍しい小型竜。

一般的に知られるドラゴンとは異なり、成体になってもそれほど巨大化しない。


しかし体内の魔力密度は非常に高く、

小さな火炎ブレス、強力な魔力感知、飛行能力などを備える。


文献によれば発見例は極めて少なく、

多くの研究者は「幻の竜種」として扱っている。


なお、小さくても竜は竜であり、

機嫌が悪いと荷物や手紙を燃やしかねないので注意!!



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