9ー10 幻獣の国
9ー10 幻獣の国
クルセイラがしがみついているヘラジカが白い霧に包まれて。
うっすらと人影が現れていく。
それは、苦しげに息を荒げ口許からは赤い血を滴らせているアイゼルの姿に変わった。
「アイゼル様!」
アイゼルがごほごほっと咳き込み血を吐く。
叔父さんがあたしをかばうように前に出るとアイゼルに話しかける。
「なぜ、こんなことを?」
「ふっ・・」
アイゼルが口許を歪める。
「最初から愛されて当然の者に、わしの気持ちは理解できん」
アイゼルから強烈な思念が辺りに放たれる。
それは。
アイゼルの愛。
『幻獣の王』への忠誠。
『幻獣の女王』への憧れ。
強く、強く、求める心が!
あたしたちの中に流れ込んできて!
あたしは、涙を滲ませていた。
その痛みに触れてあたしは、涙が溢れる。
「なんで・・?」
あたしが問うとアイゼルがにぃっと笑う。
「わしは・・いつしか全てを手に入れたいと願ってしまったのじゃ・・この世の全てを・・わしだけのものにしたかった・・」
アイゼルが苦しそうに息を吐く。
そして。
最後に深く。
深く、呼吸をした。
アイゼルの体から白い光が飛び出し、そして、空へと消えていく。
「アイゼル様!」
クルセイラが悲痛な叫びを上げる。
「・・父上・・!」
アイゼルは、死んだ。
その遺体は、魂が離れるとすぐに霧となって霧散した。
あたしは、緑の繭に包まれた城を解放した。
その城は。
かつて『幻獣の王』と『幻獣の女王』が暮らした思い出の城は。
アイゼルを王と仰ぐ呪師の一族が暮らすこの地で今の姿のまま、残されることになった。
あたしは、アイゼルの子であるクルセイラを次代の王とすることを許すことにした。
「この地でアイゼルの魂を弔って静かに暮らして」
あたしの願いにクルセイラは、力なく頷いた。
あたしたちが立ち去った後、城は、靄に包まれ。
そして、消えていった。
これから、再び、長い眠りにつくのだろう。
忘れられた王の眠る国。
あたしは、瞬きをして涙を散らせる。
「チカ」
叔父さんが突然、あたしを抱き上げたのであたしは、びっくりして声を上げてしまう。
「ひゃっ!」
叔父さんは、あたしを愛おしげに見つめて微笑んだ。
「帰ろうか・・家へ」
あたしは、叔父さんを見つめて。
こくりと頷く。
「うん!」
あたしと叔父さんとメイアと・・
みんなで帰ろう!
「その前に」
『西の魔女』があたしたちに声をかける。
「忘れているかもしれないけれど」
忘れている?
あたしは、きょとんとしてしまう。
1拍おいてあたしは、はっとする。
そうだった!
カリスプールの城の湖の下にあったなぞの空間!
すると『西の魔女』がやれやれというように肩をすくめた。
「やはり、すっかり忘れていたようね、チカ」
「あそこは・・もしかして?」
「ええ」
『西の魔女』が頷く。
「あれは、『幻獣の国』への入り口・・『幻獣の王』が眠る場所に続く扉だったのよ」




