9ー5 勝った!
9ー5 勝った!
老人は、あたしに語った。
「わしは、かつて『幻獣の王』に仕える者の内のひとりじゃった。中でも『幻獣の王』に信頼され、認められた存在だと自負しておった」
老人は、折れそうな拳をぎゅっと握りあたしを見つめる。
「しかし、それは、幻想にすぎなかたんじゃ」
老人がぜぃぜぃと苦しげな呼吸を漏らす。
「王が眠りにつく時、王は、わしではなく己の半身を残しそれに『幻獣の女王』を任せた」
老人が目を見開きあたしを見据えて声を荒げる。
「わしではなく!あのユニコーンにな!わかりますかな?あなたにわしの気持ちが!」
あたしの脳裏に1人の若者の姿が甦る。
「アイゼル?」
「覚えてくださっておったか?」
アイゼルは、くわっと口を開けて笑った。
「いかにもわしは、アイゼル。あなたと王に忠誠を誓ったにもかかわらず裏切られた哀れな者でございます」
「裏切ってなど・・」
あたしの言葉をアイゼルは、鼻で笑う。
「甦った王に力を注ぐ者が必要であるならわしは、いくらでも喜んでこの身を捧げたでしょう。それを王は、拒んだのじゃ」
アイゼルの中の憎悪の感情が膨らんでいくのがわかる。
メイアがあたしをかばうように前に出た。
あたしは、アイゼルに向かって告げた。
「『幻獣の王』は、決してあなたをないがしろにしたわけではない。王は、あなたを不憫に思い、自由に生かそうとしただけ!」
「自由?」
アイゼルが吐き捨てる。
「そんなもの、必要ではなかった!わしが望んでおったのは、そんなものではなかった!わしは!」
血を吐くようなアイゼルの叫びにあたしは、衝撃を受けていた。
アイゼル。
彼は、『幻獣の王』の右腕と呼ばれるにふさわしい存在だった。
今でも覚えている。
彼は、『幻獣の女王』であるあたしですら嫉妬せずにはおれないほどに『幻獣の王』の近くにいた。
王のためだけに生き、そして、おそらくは王のためだけに死ぬ。
それがアイゼルという者だった。
そんな彼に『幻獣の王』は、同情していた。
自分から逃れさせてやりたいと思っていたのだ。
なのに。
「あたしを殺したのは、あなただったのね?アイゼル」
あたしは、自分の声が意外にも淡々としていることに驚いていた。
アイゼルは、あたしを見て頷く。
「そう。おわかりになりましたか?女王」
アイゼルが高笑いする。
「わしは、まず、『幻獣の女王』を手にかけ、そして、時を待つことにしたのです」
それは、おそらくは長い長い。
気の遠くなるような時だったのだろう。
アイゼルは、待っていた。
全ての駒が揃う時を。
『幻獣の女王』が復活し、そして、ユニコーンが器を得、世界を守護するために『幻獣の王』を甦らせる時がくるのを。
「もはや、わしが生きている間には、あなたは甦らないのかと心配しておりました」
アイゼルは、狂気に満ちた笑いを浮かべる。
「わしは、勝った!」
アイゼルが狂ったように笑いながら叫ぶ。
「世界は、わしが『幻獣の王』となることを望んだのじゃ!」




