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9ー4 老いた王

 9ー4 老いた王


 「気が済んだか?」

 背後から声がしてあたしは、涙に濡れた頬を手で拭って振り向いた。

 そこには、心配そうにこちらをうかがうメイアとなんだか腹立たしげな様子の白髪の男が立っていた。

 あたしは、立ち上がると彼らの方へと歩み寄る。

 「こっちだ」

 白髪の男が先にたって歩き出す。

 後ろに続くあたしを気遣わしげに覗き込むメイアにあたしは、にこっと笑ってみせる。

 「大丈夫だから」

 男は、城の中へとあたしたちを導いた。

 白い漆喰で塗られた城の中は、薄暗くてどこかよそよそしい雰囲気だった。

 おそらく増築を重ねたのであろう内部をあたしは、見回しながら歩いていた。

 不意に明るい光が差し込み、あたしの目の前にかつての思い出が甦る。

 そのっ光が射す中庭は、あたしの気に入りの場所だった。

 あたしは、そこでよく昼寝をしていた。

 眠るあたしの側には、『幻獣の王』がいた。

 目の前が暗くなっていく。

 そして、日の差し込むその場所に置かれた寝台に1人の老人が横たわっているのが見えた。

 白髪の男が老人に跪く。

 「王よ、『幻獣の女王』を連れて参りました」

 「よくやった、クルセイラス」

 干からびた骨と皮だけのような老人がかすれた声を発した。

 クルセイラスと呼ばれた白髪の男は、俯いて王の次の言葉を待つ。

 王の震える手がクルセイラスへと伸びた。

 「祝福を」

 老いた王の枯れ木の枝のような手から光が漏れて、それがクルセイラスの頭上から降り注ぐ。

 光に包まれてクルセイラスは、感涙した。

 「ありがたき幸せ・・王よ、このクルセイラスは、どこまでも王のご恩に報いるために生き、そして死ぬ覚悟でございます」

 あたしとメイアは、2人の繰り広げる奇妙なやり取りをただ黙って見つめていた。

 「下がれ、クルセイラス。女王と話したい」

 王の言葉にクルセイラスは、渋々という様子で立ち上がると中庭から出ていく。

 あたしは、目を瞬く。

 いったい何が起こっていたのだろうか?

 「驚いたかね?『幻獣の女王』よ」

 老人は、嗄れた声で話した。

 「こちらへ・・もっとよく顔を見せておくれ」

 手招きされてあたしは、ゆっくりと寝台の方へと近づいていく。

 すぐ側まで行くと老人がかっと目を見開いた。

 長い眉毛の下の血のように赤い瞳があたしをとらえる。

 「おお・・まさに女王の気・・女王が発する魔素を感じる・・」

 老人が感極まったように言葉をつまらせる。

 「・・よくぞ、戻られた・・女王よ」

 「あなたは、誰なの?」

 あたしは、老人に訊ねた。

 老人は、頭を振る。

 「わしは、誰でもない。ただの影・・失われた英傑の影のようなものじゃ」

 「なぜ、あなたたちは、『幻獣の王』を甦らせようとしている?」

 あたしの問いに老人がくふっと笑った。

 「逆じゃな」

 老人が不気味な笑いを浮かべる。

 「我々は、王を甦らせるのではない。わしが望むのは、わしこそが次の『幻獣の王』となること」

 

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