9ー3 思い出
9ー3 思い出
男の手をとると目の前がぐらりと揺らいで暗闇に包まれる。
そして、次に目を開くとあたしたちは、木々が繁る広い庭のような場所にいた。
遠くに鳥のなく声が聞こえる。
なんだか。
涙がでそうなぐらい懐かしい気持ちがする。
「ここは?」
あたしが聞くと白髪の男が答える。
「始まりの場所。かつて『幻獣の王』と『幻獣の女王』が住んでいた城だ」
『幻獣の王』と『幻獣の女王』が住んでいた城?
あたしは、白髪の男の手を離すと走り出した。
まっすぐに木々の間を駆け抜けると少し開けた場所へと出る。
苔むした場所には、大きな切り株があり、リスによく似た小動物たちが走り回っている。
あたしは、切り株に近づくとそっとその年輪に触れた。
とくん。
心臓が跳ねる音がする。
ここだ。
ここで、初めてあたしたちは出会ったのだ。
目を閉じると過去の情景が呼び覚まされる。
この木の下であたしと『幻獣の王』の半身であるユニコーンは出会ったのだ。
それは、美しい光景だった。
あたしは・・いや、『幻獣の女王』は、木の下で眠っていた。
心地よい陽光のもと、揺蕩っていた女王を目覚めさせたのは、1頭の白馬。
いや、虹色の角をもつユニコーンだた。
「あなたは、誰?」
夢心地の女王が声をかけるとユニコーンは、そっと歩をすすめて女王の長い金色の髪に鼻面を寄せる。
くすぐったさに身を捩る女王。
それがあたしたちの出会いだった。
「ユニコーンは」
豪奢な黄金色に輝く髪に青い瞳。浅黒い肌を持つ王があたしに話した。
「私が眠りから目覚めるまで私に代わり世界を守るためのものだ」
王があたしの長い金色の髪を一房弄びながらふっと唇に笑みを浮かべる。
「そして、1人になったお前のためのもの」
王の言葉があたしの脳裏に響く。
「私がいない間、私に代わりお前を守るだろう」
そして。
王は、眠りについた。
王が眠る場所には、世界樹の樹が芽吹き王が眠る間、魔素が切れぬように世界を守る。
あたしは、世界樹に額を押し付けた。
「かならずお戻りくださるように、祈っております。我が王よ」
樹から少し離れた場所には、ユニコーンが立っていた。
『幻獣の王』の分身であるユニコーンの献身は、あたしを複雑な気持ちにしていた。
どんなに愛されても、いずれこの者は、消えてゆく。
それでも。
毎日、来る日も来る日も共に暮らしてあたしの心は揺らいでいたのだ。
『幻獣の王』の妃であるあたし。
にもかかわらず。
あたしの心の中でユニコーンの存在がだんだんと大きくなっていく。
これは、眠っている王の一部にすぎない。
そんなことはわかっていたのに。
あたしは、いつしか王の分身を愛していたのだ。
熱い。
あたしは、切り株の側にしゃがみこんで泣き崩れる。
胸が熱い。
『幻獣の王』を愛している。
だけど。
それ以上に、あたしの心は、叔父さんを求めていた。




