9ー2 交渉
9ー2 交渉
白髪の男は、あたしの頬にそっと触れた。
ぞっとするほど冷たい指先。
触れられるだけで魂までも凍えさせられるような冷たさだ。
「安心するがいい。お前は、我々の一族にとって大切な存在だ。傷つけたりはしないさ」
「なら、ここから出して!あたしたちをもとの場所に返して!」
「それは、できない」
白髪の男は、あたしをその赤い幻獣の瞳に似た目で見つめる。
「お前を戻せば、ジークナー公爵と魔女たちが『幻獣の王』を甦らせるだろう?我々は、それを看過できない」
「あなたたちは、『幻獣の王』を目覚めさせたくないの?」
あたしが聞くと白髪の男は、一瞬、何かをいいかけるが口を閉ざした。
「このっ!」
メイアが白髪の男の背後から殴りかかる。
男は、メイアに向かって手を伸ばすと呟く。
「『縛』」
ばりっ、と電気が走るような音が響き、メイア首もとと両手足に白い光の枷がはまる。
「何!?」
メイアの体が地上に落ちる。
光の枷はすぐに消えた。
だが、メイアの首もとには、青い紋様が残されていた。
「その呪は、隷属の呪だ。大人しくしていれば何も困ることはない」
「くっ!」
メイアがぎん、と男を睨んだ。
立ち上がり男に再び殴りかかるメイア。
だが。
拳が男に向かったとたんにメイアの体が弾き飛ばされた。
「ぐぁあっ!」
メイアの体が白い壁に激突して床に落ちる。
ぐったりしているメイアにあたしは、慌てて駆け寄った。
「メイア!」
メイアは、低く呻いて身じろぎした。
「これ以上は、止めておくことだ。いくら『幻獣の器』でも肉体に負荷をかけすぎれば消滅するぞ」
男があたしたちの方へと近づいてくるとあたしの前に跪く。
「チカ・・ヤツハシ・ジークナー公爵令嬢・・我々に力を貸せ。そうすればお前の叔父には手を出さないと誓おう」
あたしは、目を瞬く。
この男は、何者なの?
いったいあたしに何をさせるつもりなの?
「もしも・・叔父さんを守るためにあたしが世界に悪をなせば叔父さんはどう思うかな?」
あたしが呟くと男がにたり、と不気味に笑った。
「ジークナー伯爵か・・『幻獣の器』の中でも最強の男。しかし、玉がなければあの男は、死ぬしかない」
あたしの脳裏に傷つき倒れる叔父さんの姿が浮かんであたしは、絶望を感じる。
叔父さんたちの方法では、叔父さんは間違いなく死ぬしかないのだ。
「わかった」
あたしは、男に頷いてみせた。
「あなたたちの言う通りにする」
「理解してもらえて感謝するよ、ジークナー公爵令嬢」
男があたしの手をとり甲に口づけする。
凍えるような感触にあたしは、手を引っ込め男を睨み付けた。
「勘違いしないで!あたしは、あなたたちの仲間になるつもりはないんだから!」
一瞬、男は、目をすがめるが、すぐににぃっと口角を上げる。
「けっこう。それでこそ、我らの女王だ」
男は、立ち上がるとあたしに向かって手を差し伸べる。
「それでは、我らの『王』のもとへ案内しよう」




