8ー11 扉
8ー11 扉
あたしは、離宮の外へと駆け出した。
離宮の周囲には、鬱蒼とした木々が繁っていてまるで森の中のようだった。
しばらく走ると大きな湖にでた。
そこは、信じられないぐらい美しい場所で。
あたしは、城の庭にこんな場所があったことに驚いていた。
暗い群青色の湖を囲んだ岸には、小さな青い花が咲き乱れている。
「きれい・・」
あたしが呟いた時、がさっと森の奥で音がした。
振り向くとそこには、メイアの姿があった。
「メイア?」
「ここは、『女王の騎士の泉』です」
メイアは、すっと手を伸ばして青い花を1本手折るとそれをあたしに差し出した。
「言い伝えでは、この泉で旅の女王が騎士たちに祝福を与えたそうです」
今では忘れられた敗国の女王が敵国に連行されていく途中、この場所を通ったのだ。
その時、女王は、自分のために傷ついた騎士たちの傷をこの泉の水で洗い清めた。
そして。
この地より逃げるようにと促した。
しかし、騎士たちは、誰1人として女王を捨てて逃げようとはしなかった。
例え、敵国につけば処刑される身であったとしても女王を見捨てて逃げることなどできない。
時の女神は、彼らの魂を愛し時を越えた場所へと彼らを逃がしたのだという。
「時を越えた場所?」
あたしは、メイアに訊ねた。
「それって異世界のこと?」
「そう言い伝えられています」
メイアは、その場に座り込むと花輪を作り始めた。
メイアは、器用でみるみる内に青い花の冠が完成した。
立ち上がるとメイアは、あたしの頭上にその青い冠を掲げた。
「わたしもきっとそうします」
「えっ?」
ふっと甘い花の香りに包まれる。
メイアは、満足そうにあたしを見つめて微笑んだ。
「わたしも・・あなたのためなら命など捨ててみせます」
「メイア・・」
その時。
ぐらりと足元が揺らいだ。
泉の水が渦巻いて天へと吸い込まれる!
「メイア!」
「チカ様!」
メイアがあたしを背にかばう。
轟音が響いて!
水が消えた湖底にぽつんと扉が1つだけ現れた。
それは、腐り落ちそうになっているボロボロの扉で。
何者かに呼ばれているような気がしてあたしは、その扉に向かって歩き出した。
「チカ様!」
メイアがあたしを追ってくる。
「危険です!戻ってください!」
あたしは、背後から聞こえるメイアの声を聞きながらも進み続けた。
扉に向かうとあたしは、その錆びて朽ち果てた扉のノブへと手を伸ばした。
ぎぃっときしんだ音が辺りに響いて。
扉が開いた。
扉のむこうには夜があった。
美しい星が輝き、辺りは、しんと静まり返っていた。
まるで全てが夜を守っているようなそんな気がして。
あたしは、足音をひそめて扉の中へと入ろうとした。
その時。
「見つけた!」
声のする方を振り向く。
そこには、あの、神龍の里で会ったあの白髪の男が立っていた。
「あなたは!」
「久しぶりだね、チカ」
白髪の男は、にぃっと口許を歪める。
「いや・・『幻獣の女王』」




