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8ー6 樹

 8ー6 樹


 「見事だこと」

 背後から声がしてどこからか『西の魔女』と彼女に従うミランダ先生が現れた。

 「あなたは、叔父さんのお父様の敵を殺した。復讐を果たしたのよ」

 あたしが?

 あたしは、もう一度足元に転がるルードレール伯爵の死骸を見て、それから自分の手を見た。

 あたしの手は、どす暗い靄のようなもので包まれていた。

 「・・あたしが殺した?」

 「そうよ、チカ」

 『西の魔女』が淡々と告げた。

 「あなたがその手で殺したの」

 あたしの口から止めどなく悲鳴のような叫び声が上がった。

 あたし!

 人を殺した!

 殺してしまった!

 「チカっ!」

 ミランダ先生があたしの方に駆けてくるのが見えた。

 「来ないで!」

 あたしは、叫ぶ。

 あたしを取り囲む周囲の空気が渦を巻き、耳の側で轟音が聞こえた。

 「チカ様!」

 あたしに近づいてくるメイアを見てあたしは、声を荒げる。

 「来ないでっ!」

 あたしは、頭を抱えて泣き叫んだ。

 あたしの体から稲妻のような光が辺りに走る。

 誰もあたしに近づける者はいない。

 あたしは!

 目を閉じても涙が流れるのを止められない。

 例え、極悪人だったとしてもこの手で人を殺してしまった!

 怒りに任せて大変なことをしてしまったんだ!

 もう、あたしが許されることなんてないに違いない。

 暗澹たる思いに飲み込まれてあたしは、闇の中に消えつつあった。

 その時。

 誰かの手があたしの手を掴んだ。

 暖かい、力強い手があたしをいっきに闇から引き上げた。

 金色に輝く髪。

 そして。

 赤い幻獣の瞳。

 叔父さん・・

 そのまま、あたしは、意識を手放した。

 

 夢の中であたしは、空を飛んでいた。

 眼下には、広い草原が広がっていて。

 そして。

 遠くには天までも届きそうな巨大な樹がそびえ立っている。

 その樹は、葉が茶色く枯れていた。

 それでも。

 その樹が生きようとしていることがあたしには、わかった。

 もうすぐ。

 あたしは、樹に話しかけた。

 もうすぐ、行くから。

 待っていて。

 あたしは、風に乗って樹に近づくとふぅっと吐息を吹き掛ける。

 すると。

 茶色く枯れていた樹の葉が徐々に甦って鮮やかな緑に染まっていった。

 樹が枝を震わせてあたしが来たことの喜びを表しているのがわかった。

 はやく!

 誰かがあたしに囁いた。

 急がなくては、間に合わなくなるから!

 誰?

 あたしは、声の主に目を凝らせた。

 それは、ランディーノの姿をしていたかと思うと、ダルメスになり、はたまたメイアに変わった。

 あなたは?

 あたしは、その影に問いかけた。

 あなたは、誰?

 その影は、だんだんと濃い金色に変化して。

 あたしは、そこに立っている叔父さんの姿を見た。

 

 「叔父さん!」

 飛び起きたあたしを誰かが抱き止めてくれるのがわかった。

 ああ。

 あたしは、目を閉じて心地いい匂いを嗅ぐ。

 まるで日の光のような香り。

 あたしは、その温もりにしがみついていた。

 離れたくない!

 だけど。

 その人はあたしから体を離した。

 「気がついた?チカ」

 叔父さんの金色の髪にあたしの涙が散って露の精霊たちが辺りを飛んでいるのが見える。

 また、ダルメスに叱られちゃう!

 あたしは、ふぅっと息を吐いた。

 あたしは、露の精霊たちが消えないように願いを込めるが時すでに遅く、露の精霊たちはどんどん消えていく。

 消えないで!

 あたしは、心の中で叫んだ。

 

 

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