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8ー5 復讐

 8ー5 復讐


 口許に笑みを浮かべたまま、ルードレール伯爵は、あたしの顎を掴んで自分の方へと向かせるとじっと覗き込んだ。

 「あなたの叔父上が知っていれば決してあなたを私のもとへなど寄越すことはなかったでしょうな」

 ルードレール伯爵の不気味な微笑みにあたしは、言葉を失っていた。

 体が小刻みに震え出すのを必死に押さえる。

 そんなあたしを見てルードレール伯爵がにやにやと下衆な笑いを浮かべた。

 「人には己ではどうすることもできない性というものがありましてな。私は、どうにもあなたぐらいの少女を手に入れたいという欲望が押さえられないのですよ、ジークナー公爵令嬢」

 ルードレール伯爵は、涙ぐんでいるあたしを見て満足げに頷く。

 「そうそう。あなたのようにか弱い若いレディが私は大好きでね・・『西の魔女』は、私への贈り物としてあなたを送ってきたのでしょうな」

 あたしは、目を見開いた。

 『西の魔女』があたしをこの人への贈り物としてここに送り込んだ?

 そんな馬鹿な!

 あたしは、なんとかルードレール伯爵の手から逃れようとして踠いた。

 しかし、がっしりとした伯爵の手から逃れることはできない。

 「どうやって楽しませていただこうか・・ふふ、こんなに胸が踊ることは久しぶりだ」

 ルードレール伯爵がしまりのない顔で笑う。

 「こんな楽しいことは何年ぶりか。あれは、確か、あなたの叔父上があなたぐらいの年だった頃のことだったかな?」

 ルードレール伯爵がその分厚い唇を舌の先でべろりと嘗める。

 「こんなに楽しむのは、謀反の疑いをかけられたあなたの叔父上の父親をいたぶり殺して以来のことだ」

 なんですって?

 あたしは、目をかっと見開いた。

 「叔父さんのお父さんを・・殺したの?」

 「ああ」

 ルードレール伯爵が長い舌をあたしに向かって伸ばしてくる。

 あたしは、なんとか顔を背けた。

 頬に生臭い吐息がかかる。

 「あのときは、楽しかった。あなたの叔父上は、父親を目の前で殺されながら私に歯向かうこともできずに逃げおおせた。しかし、あのとき、見逃してやってよかったのかもしれんな」

 ルードレール伯爵がにぃっと邪悪な笑みを浮かべて見せる。

 「こんな可愛らしい姪を連れて戻ってくるとは」

 あたしは、腸が煮えくり返るような思いをしていた。

 まだ、子供だった叔父さんの目の前でお父さんを殺したこの老人をあたしは、許せない!

 あたしの中に今まで感じたことがないようなどす黒い感情が溢れてくる。

 目の前がチカチカして!

 あたしは、怒りに我を忘れていた。

 「お前は・・死ぬがいい!」

 あたしは、まるで他人の言葉のようにその言葉を発した。

 ルードレール伯爵は、一瞬、目を見開くとすぐに口から泡を吹いて苦しみ出した。

 あたしから手を離すと白目をむいて両手で胸元をかきむしる。

 身体中からしゅうしゅう湯気を出してのたうち回る老人をあたしは、凍えるような眼差しで見下ろしていた。

 やがて、老人は、ミイラのように干からびた肉体を残して死んでいった。

 あたしは、肩で息をしながらどこか他人事のように老人の死骸を眺めていた。

 


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