8ー2 露の精霊
8ー2 露の精霊
翌朝。
あたしが目覚めるともう叔父さんは、王都に旅立っていた。
あたしは、胸の中に冷たい風が吹き抜けるような気持ちだった。
それでも。
あたしは、普段と変わりなく過ごしていた。
学園では、アンナさんたちと楽しく学業に励んだし、家では、剣の鍛練をしたり刺繍を練習したり。
時には、ペンでお菓子やマンガ本を出してみたり。
ヨゼフさんと異世界の便利な品を再現してみたりもした。
だけど。
あたしの心には、常に叔父さんのことがあった。
叔父さんは、なんであんなにも懸命にあたしを守ろうとしてくれるのか。
いったい何から?
あたしは、それが知りたかった。
冬が終わっても叔父さんが王都から戻ることはなかった。
あたしは、庭で花壇の花の世話をしながらいつしか涙が溢れていた。
美しい菫にあたしの涙が落ちる。
菫がふわりと青い光を発して。
小さな光がいくつも生まれてくるのがわかった。
その光は、あたしの周囲をふわふわと漂っていた。
まるであたしを慰めるような光たちに囲まれてあたしは、ふっと口許を綻ばせた。
『女王、ワラッタ』
光たちがふわふわと飛び交う。
『女王、ワラッタ』
いつの間にかあたしの肩の上に現れていたダルメスがぽつりと呟く。
『女王の涙から生まれた露の精霊じゃな』
「露の精霊?」
あたしが聞くとダルメスが答える。
『そうじゃ。露の精霊は、朝に花に残った露と同じ。すぐに消えて失くなる。儚いものじゃ』
ダルメスがいうようにふわふわ飛んでいた光たちは、すぐに春の陽光に消えていく。
『女王、サヨナラ』
『サヨナラ、女王』
ふっと天に消える光にあたしは、手を伸ばす。
掴めそうでも掴めない。
消えていく光をあたしは、ただ見つめていた。
『女王よ』
ダルメスが小声であたしを叱るように告げる。
『あのような儚いものたちを産み出すことはあまりすすめられない』
あたしは、頷いた。
もう、1人でめそめそ泣いたりできない。
あたしは、ランディーノを呼び出すと馬車の用意をするように頼んだ。
『西の魔女』に会いに行く。
あたしは、決意を固めていた。
彼女ならきっと叔父さんが苦しんでいる理由を知っている筈。
あたしをそっと見守ってくれていたメイアがあたしによそいきの鮮やかな緑のドレスを着付けながらそっと囁く。
「わたしも行きます」
メイアは、強い眼差しをあたしに向ける。
「チカ様がどこに向かわれようともわたしが必ずご一緒します」
あたしたちが『西の魔女』のもとを訪れるとすでに『西の魔女』は、待ち構えていたようにあたしを庭へと招いた。
青い空の下で見ると『西の魔女』は、あまりにも幼げに見えた。
ミランダ先生は、今日は、学園のようで側には誰もいなかった。
「おすわりなさい、チカ」
庭に用意されたテーブルにつくと『西の魔女』の侍従がお茶を差し出す。
『西の魔女』は、あたしを見つめて目を細めた。
「あなたが来るのを待っていたのよ」




