7ー11 ダンスダンスダンス
7ー11 ダンスダンスダンス
あたしは、剣の鍛練と歴史が苦手だ。
でも、ほんとは、もう1つ苦手な教科がある。
それは、ダンスだった。
この世界では、社交ダンスが踊れなくては紳士淑女とは認められない。
貴族なら幼い頃から家庭教師について習うものなのらしい。
でも、あたしは、この前、グリノア王太子殿下と踊ったのが初めてだった。
幸いにもグリノア王太子殿下がすごくリードがうまかったので足を踏んで殿下に恥をかかせることはなかったのだが、授業では、必ず相性のいい相手と組めるとは限らない。
ダンスの授業用の軽いドレスに着替えて普通クラス用のダンスホールに集まったクラスメートたちは、なんだか興奮に包まれている。
やはり魔法学園とはいえ、この年頃の男子と女子だもの。
こういうイベントは、楽しいのだろう。
が。
あたしの周囲には暗い顔をしている女子しかいなかった。
「わたし、どうしてもダンスは好きになれないのよ」
アンナさんが俯き加減で呟く。
「2人で息を合わせてとか、苦手で」
「わたしもです」
メイアがいつになく感情を露にしている。
「2人で一緒に、とか無理ですね」
「メイアさんが苦手なものがあるなんて驚きです!」
マリカさんがふふ、と笑うとアンナさんがきっとマリカさんを見つめた。
「あなた、ダンスはできるわけ?」
「え・・」
マリカさんが口ごもった。
わかる!
あたしたち、普通の異世界人にとっては、ダンスなんてほんと踊ることないもの!
と思っていたらマリカさんが申し訳なさげに告げた。
「実は、教会でダンスの練習をしてて・・なんでも聖女がダンスも踊れないのはまずいとかで・・」
マジですか?
というわけで。
気がつくとダンスホールの端っこにはあたしとアンナさんとメイアだけが残されていた。
「まさか、パートナーすらいないのかしら?」
アンナさんがいらっとした様子で言う。
ほんとは、クラスには男子の方が多いので女子があぶれることはない筈なんだけどみな、あたしたちをダンスの相手に選ぶことはなかった。
「仕方ないわね」
アンナさんがメイアの手をとって踊り出す。
「わたし、ダンスが嫌いな訳じゃないのよ!ただ、相手の足を踏まないか気をつけながら踊るのが嫌なだけなの!」
メイアは、器用にアンナさんの足を避けながら踊っていた。
なかなかいいコンビだし!
あたしは、1人残されて壁にもたれてため息をつく。
と。
目の前に誰かの手が差し出された。
顔をあげるとそこにはグリエ君の笑顔があった。
「踊っていただけますか?レディ」
あたしが答える前にグリエ君はあたしの手をとり踊り出す。
やっぱりグリノア様は、リードが上手で!
あたしたちは、くるくると蝶のように軽やかに舞っていた。
気がつくとみんながあたしたちを眺めていて。
ダンスの先生が拍手をしてくれた。
「素晴らしいわ!あなたたち、息もぴったりの素敵なカップルだこと!」
他のクラスメートたちが口笛を吹いたり、冷やかすような声をかけたりするのであたしは、頬が熱くなる。
でも。
グリエ君は、あたしの手を離そうとはしなかった。
「グリエ君?」
「チカ」
次の曲に合わせてダンスを再開したグリエ君は、あたしの耳元で囁いた。
「今だけは、僕だけのお姫様になってくれる?」




