7ー6 受肉
7ー6 受肉
誰かが呼んだのだろう。
駆けつけた衛士があたしの腕を掴んだ。
「一緒にきていただきますよ、ジークナー公爵令嬢」
「嫌っ!」
あたしは、衛士の手を振りほどいた。
誰か!
あたしは、恐怖と不安で涙が溢れ出しそうになっていた。
「何事だ?」
人混みが一瞬の内に割れて、その間を叔父さんが悠々と歩いてくるのが見える。
あたしは、ホッとして思わず涙を溢した。
「叔父さん・・」
「チカ」
叔父さんがあたしの側にいた衛士を睨み付けるとあたしをかばうように間に入る。
「私の姪に気安く触れるな!」
「しかし!」
衛士が反論しようとするのを叔父さんは、真っ赤な燃えるような瞳で見つめると口許を歪める。
「しかし・・なんだ?」
「この者は、王太子殿下に毒を盛った犯人と思われます」
「毒?」
叔父さんが目を細めて聞いた。
「そうなんですか?グリノア王太子殿下」
「いや・・何か、勘違いしているようだな」
床の上に倒れていた筈のグリノア王太子殿下がゆっくりと立ち上がりふっと笑みを浮かべる。
「みな、聞くがいい!私は、毒など盛られてはいない!」
グリノア王太子殿下は、みなに向かって笑みを深めた。
「きっとエレノア嬢の勘違いだろう」
「そんな!」
エレノアさんが声を荒げた。
「確かにわたしは、見ましたわ!」
「何を?」
グリノア王太子殿下の声が低くなる。
「あなたは、いったい何を見たと?」
「それ、は・・」
グリノア王太子殿下に聞かれてエレノアさんが青ざめて口をつぐむと震える声で言った。
「わたし・・王太子殿下がお倒れになったので、てっきり・・」
「そうなのか?」
グリノア様は、肩をすくめると一段と大きな声で告げた。
「みなも、聞いた通りだ!すまなかったな、心配かけてしまって。せっかくの楽しい宵だ。心置きなく皆、楽しんでくれ!」
青ざめて悔しそうに歯ぎしりするとエレノアさんは、踵を返してかけ去った。
ざわめきが広がり、すぐに人々は、パーティーに戻っていく。
新しい音楽が始まり、人々は、パートナーと共にダンスに興じたり、食事をとったりし始めた。
「チカ・・こちらへ」
『西の魔女』が滑るように歩み寄ってくるとあたしを手招きする。
背後に従うミランダ先生があたしをちらっと見つめる。
叔父さんがあたしの肩を抱いてあたしに頷きかける。
あたしは、叔父さんと一緒に『西の魔女』の後に続いた。
『西の魔女』は、あたしたちを城の控え室のような部屋へと通した。
「災難だったわね、チカ」
ミランダ先生の手を借りて小柄な体にはちょっと大きな椅子に腰かけると『西の魔女』は口許に笑みを浮かべた。
「でも・・おかげでいいものが見られたわ」
『西の魔女』があたしをその深い藍色の瞳で見つめる。
「『勇王の剣』の受肉」
身動ぐ叔父さんに『西の魔女』が牽制するように片手を上げる。
「まさか、あれが幻獣と同じ類いのものだったとは思いもしなかったわ。もしかしたら『聖女の錫杖』もそうなのかしら?」
問われてあたしは、答えられなかった。
だって!
知らないから!
あたしが答えないのを見て『西の魔女』がふっと口許を緩めた。
「まだ、あなたは、完全ではないのかしら?」
「何を企んでいるかは知らないが」
叔父さんがあたしを守るようにして身を乗り出す。
「この子は、あなたが思っているようなものではない」
「あら」
『西の魔女』が口許に指先をあてて叔父さんを見た。
「だから、あなたは、この子を王家に差し出したのではないの?・・この子を守るために」




