7ー5 毒殺
7ー5 毒殺
会場は、人のざわめきに満ちていた。
魔道灯で作られたシャンデリアが眩しく輝いていて、きらきらと辺りを照らし出している。
着飾った人々の中には、アンナさんとヨゼフさんの姿もあった。
あたしは、手を振りたい衝動にかられたがぐっと堪える。
そして、黒いドレスに身を包んだ『西の魔女』があたしたちの婚約とマリカさんが聖女であることを告げるとその場は歓声に包まれた。
厳かに音楽が鳴り始めるとあたしは、グリノア様にエスコートされて人の輪の中心へと進み出る。
これがあたしのファーストダンスだ。
ほんとは叔父さんと踊りたかった。
ふとそんなことを思って頭を振る。
グリノア様があたしの耳元で囁く。
「いけない人だ。私とダンスを踊っているというのに別の男のことを考えるなんて」
「はひっ!?」
あたしは、かぁっと頬が火照ってくるのを感じていた。
「そ、そんなことっ!」
「無理しないで、チカ」
グリノア様が青い瞳を煌めかせる。
「今は、許して上げるよ。でも、きっと私を1番好きにさせてみせるから」
あたしは、頭がくらくらしていた。
グリノア様の足を踏まないようにと集中していたのに、そんなことを囁かれて!
曲が終わるとあたしたちは、人気の少ない壁際へと移動した。
すぐに城の使用人が飲み物を運んでくる。
グリノア様に渡された果実水のグラスを受けとる。
グリノア様は、自分のグラスに口をつけ一口飲むとすぐに叫んだ。
「チカ!飲むな!」
グリノア様に叩き落とされて落ちたグラスが割れる音がして。
同時にグリノア様がぐらりと倒れる。
「グリノア様!」
倒れたグリノア様の側に膝をつくと彼を助け起こす。
口許から血が流れているのが見える。
「毒よ!」
誰かが叫んだ。
「王太子殿下にジークナー公爵令嬢が毒を飲ませたのよ!」
辺りがざわめき、あたしたちの周囲に人だかりができる。
「なんて人なのかしら!自分の婚約者に毒を飲ませるなんて!」
それは、赤いドレスを着たエレノアさんだった。
憎しみに燃える目であたしを睨み付けて叫んだ。
「わたしは、見たのよ!この女が王太子に毒を飲ませるのを!」
「そんな!」
その時、グリノア様がごふっと血のようなものを嘔吐した。
顔色が紙のように白くなっている?
このままでは、グリノア様が死んでしまう!
「治癒します!」
駆け寄ってきたマリカさんがすぐにグリノア様に治癒魔法をかける。
少し顔色がよくなるがまだグリノア様は、虫の息だ。
あたしは、ふと思い付いて立ち上がるとペンを取り出して空中に『勇王の剣』と書く。
すぐに空に黄金色の剣が現れる。
「『勇王の剣』よ!その主を救って!」
あたしがそう叫ぶと剣がグリノア様の体を貫き、そして、そのまま体内へと消えていく。
グリノア様が低く呻いた。
「ど、毒を飲ませた上に剣で刺すなんて!なんて女なの!」
エレノアさんが騒ぎ立てる。
「はやく!衛士を!この女を捕らえて処刑するのよ!」
エレノアさんの言葉にざらめきが広がっていく。
人々は、口々に叫んだ。
「この罪人を捕らえよ!」
「処刑するんだ!」
「王太子を殺そうとするなんて!なんて罪深い!」
人の悪意の渦に飲み込まれてあたしは、立ちすくんでいた。
恐怖に体が震える。
叔父さん!
あたしは、心の中で叔父さんを呼んでいた。




