7ー1 婚約
7ー1 婚約
夏が過ぎる頃、王都から叔父さんのもとに使者がやってきた。
それは、国王陛下からの書状を届けるもので。
その日、あたしは、メイアと2人でサンルームで刺繍をしていた。
ルミエ商会との契約であたしとマリカさんにはヨゼフさんから毎月金貨3枚ほどのアイデア料が支払われている。
ジャージ、汗ふきシートの他にもズック靴とかも売り出されていてけっこうな収益になっていたのだ。
あたしは、そのお金でルミナ商会で売っていた白い男性用のハンカチを購入しそれに刺繍をしている。
叔父さんの誕生日は、秋の祭りの頃だから。
誕生日に手作りの刺繍入りのハンカチをプレゼントしたくて。
でも、あたしは、刺繍なんてしたことがなくて。
メイアに教わってなんとか小さな小鳥の魔物の刺繍をしていたのだが、どう見てもそれは、鳥ではなくて猫みたいに見える。
「これ、ランディーノに似てない?」
あたしが言うとメイアが吹き出した。
「す、すみません!チカ様!」
メイアは、平謝りに謝った。
あたしは、ひきつった笑顔を浮かべる。
「いいから!気にしないで!」
「チカ」
叔父さんがいつの間にか部屋の入り口に立っていた。
「叔父さん?」
あたしが顔を上げると叔父さんは、メイアに下がるようにと目配せした。
メイアは、何か言いたげな様子だったが大人しく部屋から出ていく。
窓辺のベンチシートに腰を下ろしているあたしの横に座ると叔父さんが口を開いた。
「チカに婚約の申し込みがきている」
「こ、婚約?」
あたしは、思わず呆けた顔をしてしまう。
叔父さんは、頷くとあたしに話した。
「最近、王都で立太子が行われたことは知ってる?」
あたしが頷くと叔父さんは、続けた。
「本当なら第1王子であるランディアが王太子になる筈だったんだがランディアが臣下に下りたいと希望したため第2王子であるグリノアが王太子となった」
なんでもグリノア王太子殿下には、後ろ楯がいないらしい。
そこで王様が公爵である叔父さんをグリノア王太子殿下の後ろ楯にするためにあたしに婚約を申し込んできたらしい。
いつもと同じ表情で淡々と話す叔父さんをあたしは、じっと見上げていた。
叔父さんは、あたしがグリノア王太子殿下、いや、グリエ君と婚約しても平気なんだ。
そう思うとなんだか胸が痛い。
あれ?
あたしは、首を傾げる。
なんであたし、胸が痛いの?
おかしいな。
あたしは、刺繍から顔を上げると叔父さんに告げた。
「いいよ。叔父さんがそう望むなら、あたしはかまわないから」
「チカ・・」
叔父さんが一瞬、苦しげな表情になったような気がした。
でも。
叔父さんは、すぐにいつもと同じ優しい笑みを浮かべてあたしを見つめていた。
「わかったよ、チカ。では、この婚約を受けることにしよう」
叔父さんが部屋を出ていった後もあたしは、刺繍を続けていた。
針先が指に刺さってしまい赤い血が滲む。
あたしは、なぜか涙が溢れるのを止められなかった。
「チカ様?」
戻ってきたメイアがあたしに駆け寄ってくる。
「どうされましたか?」
「・・メイアっ!」
あたしは、メイアにすがって泣いた。
この涙の意味もわからないままに。




