6ー11 王太子
6ー11 王太子
「それは」
フロイス神官長があたしの目を覗き込む。
「エレノア嬢が聖女であることを受け入れられないということかな?チカ嬢」
「・・そうです」
あたしは、少し躊躇しながらも頷いた。
「はっきり言えば、あたしは、エレノア嬢が聖女だとは認められません」
「なら」
神官長が射るような眼差しであたしを見つめた。
「君は、いったい誰を聖女だと思っているんだね?」
あたしは、フロイス神官長のもとからロードスさんの診療室に戻った。
そして。
「マリカさん!」
あたしは、ロードスさんの補助をしているマリカさんに歩み寄るとじっと見つめた。
そして。
あたしは、ペンを取り出すと『錫杖』と書く。
すると、あたしの手の中に『聖女の錫杖』が現れた。
「これを!」
「はい?」
マリカさんは、なんのことだかわからないという表情でそれでもあたしから錫杖を受けとる。
その瞬間!
錫杖が黄金に輝いた。
優しい、暖かな光が辺りに満ちて。
診療室のベッドに横たえていた患者さんたちが突然、むくりと起き上がって口々に騒ぎだした。
「怪我が!治った!」
「もう、痛くないぞ!」
「これが治癒魔法!?」
「すごいっ!」
ロードスさんが呆気にとられた顔をしている。
マリカさんは。
ロードスさん以上に驚いていた。
「これ、わたしが?」
「やっぱり!」
あたしは、頷いた。
「本物の聖女は、マリカさんだわ!」
この『聖女の錫杖』がマリカさんを選んだのだ。
あたしは、錫杖をマリカさんに預けることに決めた。
もちろん、錫杖は、マリカさん以外の者には反応しない。
もし、マリカさん以外が持ったらそれは、だたの古めかしい杖にすぎない。
これで『聖女の錫杖』の行き先は決まった。
後は。
『勇王の剣』
これは、すでに剣自身が持ち主を選んでいる。
「グリエ君・・」
あたしは、叔父さんの屋敷のあたしの部屋の窓から王都の方向を眺めて呟いた。
グリエ君は、いろんな物に縛られている。
王族の血。
身分。
でも。
そんなもの、グリエ君のほんの一部にすぎないのだ。
あたしは、空を見上げた。
夜空に星が輝く。
グリエ君。
あたしは、思っていた。
グリエ君が必要としているものは、何?
家族の絆?
肉親の愛情?
そんなものは、あたしにも与えてあげることはできない。
でも。
それ以外なら与えられる。
友だちとしての愛情も。
仲間としての友愛も。
だから。
はやく気付いて!
グリエ君がほんとに何を必要としているのかを!
それが世界のために必要なのだから。
数日後。
あたしは、王都で国王によって立太子がなされたことを叔父さんから聞いた。
新しい王太子は。
グリノア・ラフニノフ殿下。
つまり、グリエ君その人だった。




