6ー10 直訴
6ー10 直訴
相変わらずあたしは、学園の休日には教会の診療所に手伝いに行っていた。
それは、マリカさんのためでもあった。
ダンジョンの一件以来、エレノアさんのマリカさんへの仕打ちは、幾分ましにはなっているらしい。
それでもあたしは、マリカさんが心配だった。
それに診療所のみんなのことも。
ロードスさんたちは、あたしのことをしばらくの間、特別扱いしていたけど、だんだんと元通りの関係に戻っていっていた。
あたしは、変わらず役立たずの診療所の手伝いだった。
そんなある日のことだ。
あたしが診療所に顔を出すとロードスさんが気まずそうに告げた。
「お前は、今日から私のところではなく第1診療所付きになったからそっちへ行くように」
はいっ?
あたしは、目をぱちぱちと瞬いた。
確か、第1診療所は、ロードスさんの診療所とは違って王公貴族のための診療所だ。
そして。
そこにいる治癒師であるルイザ・タートスさんは、診療所全体の主任であり、エレノアさんの師事している治癒師だった。
「嫌です!」
あたしは、ロードスさんに訴えた。
「あたしは、ロードスさんのもとで働きたいです!」
「チカ・・」
ロードスさんが複雑そうな顔をする。
「そういってくれるのは嬉しいが・・お前のためにも主任のもとに行った方が」
「あたしは!」
あたしは、声を大にして告げた。
「ロードスさんのもとで働く方がいいです!」
ロードスさんは、人使いが荒いし、休憩もまともにとらしてはくれない。
それでも。
どんな貧しい人でも、裕福な人でも変わりなく治療しているロードスさんをあたしもマリカさんも尊敬している。
それに、あたしは、エレノアさんと一緒に働きたくはない。
「神官長に直訴します!」
あたしは、教会の最奥にある神官長の執務室へと向かった。
重々しい、白亜の扉を前にあたしは、立ち止まる。
すぅっと深呼吸をするとドアをノックした。
「入りなさい」
中から声が聞こえた。
あたしは、思いきってドアを開いた。
そこには、栗色の髪を肩まで伸ばした白い神官服の中年男性がいた。
このミルカリアの街の教会の神官長であるフロイス・ローダは、優秀な人物だ、と叔父さんが言っていたのを思い出した。
「なんの用でしょうか?チカ・ヤツハシ・ジークナー公爵令嬢」
油断なく目を細めるフロイスさんにあたしは訴えた。
「今度、あたしのお手伝いする診療所が変わるとお聞きしたのでそのことでお願いがあって参りました」
「ほう。どんなお願いかね?」
フロイスさんが笑顔で訊ねた。
しかし、目は、笑っていない。
あたしは、ぐっと拳を握りしめると声をあげた。
「あたしは、今まで通りロードスさんのもとで働かせていただきたいのです」
「うん?」
フロイスさんが首を傾げる。
「しかし、君の身分からしたらもともと、ロードス神官のもとで働くのは異例のことだったんだが」
フロイスさんがあたしに微笑みかけた。
「それに君にとっても悪い話ではない筈だよ?チカ嬢」
フロイスさんは、デスクに肘をつくと顔の前で手を組む。
「君のこれからの人生を考えるに診療所の主任であるルイザのもとで働くことはプラスになると思うんだが」
「例えそうであっても」
あたしは、きっぱりすっぱりと告げた。
「あたしは、ロードス神官のもとでしか働きませんから!」




