5ー8 危機
5ー8 危機
全身が震えるような咆哮が聞こえて銀色の影が走った。
巨大な狼の姿が現れ、翼を持った小型の竜のような魔物に噛みつくとそれを食いちぎる。
魔物の断末魔の叫びが辺りの空気を震わせた。
「メイア!?」
フェンリルは、ちらっとあたしの無事を確認すると魔物に突っ込んでいく。
助けにきてくれたんだ!
あたしは、胸の底から勇気が溢れてくるのを感じていた。
「ロードスさん!マリカさん!」
駆け寄ると青ざめた表情のマリカさんが頭から血を流しているロードスさんを抱えて涙ぐんでいる。
「チカ様!ロードス先生が!」
ロードスさんは、青ざめていてマリカたちの呼び掛けにも反応しない。
あたしは、そっとロードスさんの手首に触れる。
脈がふれない。
間違いなくロードスさんは、このままでは死んでしまう。
「マリカ!万能薬は?」
「もうないわ!」
マリカさんが悲鳴のような声をあげる。
「最後の1本をさっき使っちゃったの!」
どうしよう!
あたしの持っていた万能薬ももうとっくになくなってしまっていた。
あたしは、せわしなく頭を巡らせていた。
事態は一刻を争う。
あたしは、悩んだ末にペンを使うことにした。
もしも世界の法則に反することをすれば、叔父さんの中のユニコーンが暴れだし叔父さんが危険にさらされる。
でも!
ここでロードスさんを失うわけにはいかないし!
あたしの心はめちゃめちゃに乱れていた。
それでも!
あたしは、ペンを取り出すと空に文字を書いた。
『治癒』
すると虹色に輝く文字が散り散りになって辺りに拡がっていき、周囲一帯を包み込んだ。
金色の光が天から降り注ぐ。
マリカさんに抱かれていたロードスさんが呻き声を漏らして身じろぎした。
「・・私は・・いったい・・」
「ロードス先生!」
マリカさんが喜びの声をあげる。
あちこちに横たえられていた人たちが口々に声をあげる。
「傷が治った!」
「こっちもだ!」
「すごいっ!奇跡だ!」
「女神の祝福だ!」
起き上がったロードスさんがはっとした表情になり、そして、あたしの前に膝をついた。
「聖女よ・・」
はいっ?
あたしは、ぎょっとしていた。
でも。
次々とあたしの周囲に人が集まってくる。
みな、あたしの前で跪き口々に聖女、だとか、女神の降臨だとか呟く。
魔物の討伐が終わって戻ってきたメイアにあたしは、助けを求めるがメイアは、当然のことというような顔をしているし!
困った!
「遅かれ早かれこうなることはわかっていた筈だ」
あたしの背後から声がして振り向くとそこには叔父さんが立っていた。
真っ赤な血のような幻獣の瞳をしている。
叔父さんは、あたしを抱き寄せるとロードスさんに命じた。
「もはや魔物の危機は去った。人々をミルカリアの街へ移動させよ」
「は、はいっ!」
ロードスさんたちが立ち上がって動き出すのを見届けると叔父さんは、あたしを抱き上げる。
次の瞬間。
気がつくとそこは、叔父さんの家の庭だった。
叔父さんは、あたしを抱いたまま部屋へと連れていくとあたしを寝室のベッドへと横たわらせる。
「チカ・・無茶はしちゃいけないといっただろう?」
「叔父さん?」
叔父さんの顔色が蒼白になっている?
叔父さんは、そのままベッドの脇に倒れ込んだ。
「叔父さん!」
あたしは、叫んだ。
叔父さんが!
叔父さんが死んじゃう?




