5ー3 ヨゼフさん
5ー3 ヨゼフさん
アンナさんは、あたしたちを応接室へと通すとキアさんに頼んでお茶を用意してくれた。
キアさんが出してくれたお茶を飲んでいるとバタバタっと騒がしい足音が聞こえてばん、と応接室のドアが開かれた。
「おかえり、アンナ」
アンナさんとよく似た黒髪に青い瞳の青年があたしたちに微笑んだ。
「学園のお友だちかい?」
「ええ。みなさん、紹介するわね。兄のヨゼフ・ルミナよ」
ルミナ?
あたしは、首を傾げた。
確か、魔法学園の入学準備の時に行った商会の名前もルミナだったような?
というか、アンナさんは、プルーストっていう名字だったんじゃ?
何か深い事情がある?
あたしは、ちらっとメイアとマリカさんをうかがった。
そんなあたしの様子に気付いたアンナさんが気まずげに話した。
「実は、わたし、本当の名前は、アンナ・ルミナなの。でも兄の商会の関係で偽名を使ってるのよ」
なんでもこの国でも5本の指に入るほどの大商会であるルミナ商会のご令嬢だとわかったら誘拐やらなんやらの危険があるとのことで偽名で暮らしているんだとか。
「ジークナー公爵には、いつもお引き立ていただいています」
ヨゼフさんが礼をとる。
「チカお嬢様も店の方に来てくださったことがありましたよね?」
すごい!
1回行っただけなのに覚えてるなんて!
あたしは、感心していた。
ヨゼフさんは、ソファのアンナさんの横に腰を下ろすとアンナさんに訊ねた。
「私に紹介したい人ってチカお嬢様のことかな?アンナ」
「まあ、そうなんだけど」
アンナさんは、肩をすくめて見せると今日の鍛練の時間のことを話した。
「彼女たちが着ていたじゃーじという服がわたしも欲しいの。それで、兄さんにお願いしようかな、と思って」
アンナさんがヨゼフさんにウインクする。
「お願い、兄さん」
「仕方ないなぁ」
ヨゼフさんは、呆れた様な顔をしながらもアンナさんにと訊ねた。
「で?それは、どんな服なの?」
「ありがとう、兄さん」
アンナさんがヨゼフさんに抱きつくとあたしたちを見た。
「お願い!じゃーじを兄さんに見せてあげて」
あたしたちは、ちょっと顔を見合わせてしまう。
だって、鍛練の時間に結構汗をかいていたのでちょっと今、ジャージを見せるのは躊躇われた。
あたしは、仕方ないのでちょっと部屋を辞してお手洗いを借りることにした。
キアさんがあたしをお手洗いまで案内してくれた。
お手洗いに入るとあたしは、ポケットの中に入れていたペンを取り出して空中にジャージと書いた。
すると。
新品の赤いジャージが現れた。
あたしは、それを持って応接室へと戻った。
お手洗いの前で待っていてくれたキアさんは、一瞬、いぶかしげな顔をしたがすぐに何事もなかったかの様な表情になり無言であたしを案内してくれた。
「このジャージ、新しいものなんだけど、よかったらアンナさんに使ってもらえたら」
あたしが差し出すとアンナさんが目を丸くする。
「いったいどこから取り出したの?というか、ジャージの予備はもうなかったんじゃ?」
「実は、余分が一着だけあったの」
「そうなの?」
疑いつつも受け取ってくれたアンナさんは、そのジャージをヨゼフさんに渡した。
ヨゼフさんは、ジャージを手に取り驚いた表情をする。
「なんて美しい縫製なんだ。しかもこの生地、柔らかくて伸縮もいい」




