4ー1 壊せないもの
4ー1 壊せないもの
「しかし!」
「大丈夫よ、ミランダ」
有無を言わせない『西の魔女』の態度にミランダ先生は、不服そうに彼女を見たが、すぐに黙って礼をとると部屋から出ていった。
「このまま、ベッドの上から失礼するけどかまわないかしら?」
あたしが頷くと『西の魔女』は、ふっ、と笑みを浮かべてあたしたちに椅子に座るようにと促した。
あたしは、ベッドの横にあった大きな椅子に腰を下ろし、メイアと彼女の肩にのったダルメスがあたしの背後に控える。
「あなたは、ジークナー公爵の姪だそうね、チカ」
「そうです」
あたしは、薄闇の中で仄かな光を放っている『西の魔女』の半身に目を奪われていた。
ところどころ何かの牙のように鋭い刺が突き出している。
まるでそれは、『西の魔女』の細い体を貫く刃のように見えた。
「この体が珍しい?」
『西の魔女』がふふ、と笑う。
あたしは、慌てて視線をそらした。
「いいのよ、チカ」
『西の魔女』が落ち着いた心地よい声で話を続ける。
「この体は、かつて『幻獣の王』と契約を取り交わした報い。人の身には重すぎる契約故の代償がこれなの」
「『幻獣の王』?」
あたしは、取り憑かれたようにじっと『西の魔女』を見つめていた。
『西の魔女』は、首を傾げる。
「もしかしてあなたは、何も、ジークナー公爵から聞いていないのかしら?」
叔父さんから?
あたしが首を振ると『西の魔女』がくすっと笑う。
「あなたの叔父さんは、よほどあなたが大切なのね。何も真実を告げることもなく己の庇護のもとにただ守り続けようなんて、あの方もとんだ過保護だこと」
叔父さんがあたしに真実を告げてない?
あたしは、いぶかるように『西の魔女』を見つめた。
長い藍色の髪に縁取られた青白い顔をしたその人は、きっと、かつては美しかったに違いない。
ほっそりとした顔の中で大きな藍色の瞳だけがぎらぎらと輝いている。
「だから、ね」
『西の魔女』が苦笑する。
「あなたが私から全てを知らされる前になんとかしてあなたを取り戻そうとやっきになっている」
遠くで地響きのような低い音が鳴っているのが聞こえてメイアが身構える。
「あなたの叔父さんは、あなたを悪い魔女から奪い返すために形振り構わずにここを目指しているようね」
もしかして。
この城に今、叔父さんが来ている?
どこかで爆発音が聞こえた。
ずん、っと鈍い音がして少しだけ辺りが揺れる。
「壊せないものを壊そうとする男、嫌いではないわ」
『西の魔女』があたしに微笑みかける。
「あなたは、叔父さんからずいぶんと愛されているようね、チカ」
「叔父さんが?」
いつも静かで優しい叔父さんが?
あたしは、なんだか恐ろしいような気持ちと、それと同時に沸き上がってくるような喜びを感じていた。
あたしは、『西の魔女』に訊ねた。
「叔父さんがこの城を攻撃しているんですか?」
「ええ」
『西の魔女』が愉快げに目を細める。
「幻獣である以上、決して私の城を落とすことなどできないことを知りながら、あの男は、ここを攻めている。全て、あなたのために」




