3ー8 毒
3ー8 毒
ミランダ先生がこほん、と咳払いするとお茶のカップへと手を伸ばす。
「このお茶は、ジークナー公爵領から取り寄せたお茶なの。『西の魔女』様も気に入っておられるわ」
そう言ってミランダ先生は、一口お茶を飲んだ。
続いてミランダ先生の隣に腰かけているマリカさんもお茶をごくごくと飲んだ。
空になったカップに気付いたメイアがテーブルに置かれていたポットを手に取りマリカさんのカップに注いだ。
「ありがとう」
マリカさんは、礼を言うと再びカップを手に取る。
今度は、一口だけお茶を口に含んだ。
と。
マリカさんの様子が変?
呻きながら胸元をかきむしっている。
すぐにミランダ先生も気付いてマリカさんに呼び掛ける。
「マリカ嬢?」
マリカさんは、ごぼっと血を吐いた。
白いテーブルクロスに赤い血が滴り落ち、椅子が倒れ、マリカさんがどさっと地面へと崩れ落ちる。
すぐにミランダ先生がマリカさんを抱き起こすがマリカさんは、青い顔色をしていて呼吸も苦しそうだ。
「誰か!治癒師を呼べ!それから、騎士たちを!」
あたしは、何が起こっているのかわからなくて呆然としていた。
すぐにやってきた騎士にミランダ先生が叫ぶ。
「マリカ嬢に誰かが毒を盛った」
ミランダ先生がメイアを指差す。
「あのメイドがいれたお茶を飲んだとたんに倒れた!」
騎士たちがメイアの周囲を取り囲む。
メイアがちらっとあたしの方を見る。
あたしは、メイアに駆け寄った。
「この子は、あたしの連れです。この子が毒を盛るわけがありません!」
「そのメイドをかばうならあなたも同罪になるわよ?チカ」
ミランダ先生の言葉にあたしは、きっ、とミランダ先生を睨んだ。
「それでも結構!メイアは、無実なんやから!」
騎士の1人があたしの腕を掴んだ。
その瞬間、ダルメスが炎を吐く。
騎士はあっという間に炎に包まれる。
「助けてくれ!」
騎士は、地面に倒れてもがいている。
あたしは、慌てて、水を出して騎士の体の炎を消した。
『我らの女王に気安く触るでないわ!』
ふーっとダルメスが威嚇するように牙を見せる。
メイアも自分を捕らえようとする騎士たちを投げ飛ばしてあたしの脇に立つ。
「チカ様に手出しする者は、わたしが許さない!」
辺りにメイアとダルメスの激しい怒りのこもった気が溢れ騎士たちが思わず後ずさりする。
その時。
「獣たちよ、その牙を引け」
涼やかな女の人の声が聞こえて騎士たちがはっと表情を変える。
女の人の声は、庭に置かれている天蓋付きのベッドから聞こえてきた。
「ここで、私に逆らうことは許されない。主のためを思うなら大人しくすることだ」
その言葉と共に光が伸びてきてダルメスとメイアを拘束するのがわかった。
「古の契約によりお前たちには、私を傷つけることはできぬ」
白いレースのカーテンが揺れて中から女の人が現れた。
一瞬でその場の空気が変わり、彼女に支配されていくのがわかった。
彼女は、奇妙な姿をしていた。
体の半身から幾つもの水晶のようなものが生えている。
おそらく石が生えている半身は、動かないのだろう。
ベッドに腰かけたままその女の人は、あたしを見つめた。
暗い藍色の瞳には、光はない。
まるで絶望に打ちひしがれているかのようだ。
髪も濃い闇の色をしている。
あたしは、この人が『西の魔女』だとすぐにわかった。




