接近
真夜中。
「すみませんねぇ、嶺亜さん…仕事は出来るんですけどぉ、難アリというか何というかぁ…」
「いえ。俺も部品の整合確認もしたかったので。」
流石に燈夜一人で行かせるわけにも、とついてきた高科はこの静まり返った雰囲気が怖いらしくこの部屋に着くまでずっと話していた。それでも深部には触れない、他愛の無い話ばかりで統括部が守っている秘密は保持しているように思えた。
高科が鍵を開けると、中から小さく通知音が鳴っているのが聞こえてくる。
『人形』は椅子には居なかった。
部屋の奥、質素なベッドの上で横たわっていた。目は閉じている。眠っているらしい。
(…寝転がって寝るってのもするんだ。)
やはり息苦しさを覚えそうな空気の中、通知音を消しながらふと思った。
『人形』は、人間だ。
「あ〜…もう、変に投与量を増やすから…」
新たに交換をした部品のチェックをする傍らで高科が呟くのが聞こえてきた。
横目で見る。腕の輪が放つ規則的な明滅が昼に見た時よりゆっくりだ。
何の為の“投与”なのか。そもそも何の“投与”なのか。何も分からない。
だが不用意に尋ねるわけにもいかない。
「機能確認、終わりました。問題ありませんでした。」
燈夜の言葉に高科が目を輝かせる。
「ありがとうございます〜、さ、早く出ましょう!私、この異常な場所がどうにも苦手でありまして_」
「…違う。」
「へっ??」
思わぬ言葉に高科が目を丸くして振り返った。
「…俺、喋ってないです。」
二人共口を閉ざした。高科が生唾を飲む音が聞こえた。
「ここに異常は無い。」
質素なベッド。そう話したのは、横たわっているそいつだ。
薄青い瞳は天井へ向いたままこちらを見ることもなく、ただその一言を発した。
「か…帰りましょう!」
逃げるように、高科に急かされて出た部屋。行きよりもずっと早足で、そして無言で進んでいく高科の後に続いて“安全”な保安庁の入口まで戻って来た。
「……。誓約書にも、ありますが…今日の、事はご内密に。必要とあらば、私が報告しますので…」
動揺を隠さず震える声で高科からそう告げられた。頷き、高科と別れた。
「………。」
今、歩いてきた道を振り返る。足早に遠ざかる高科の足音。
辺りの気配を窺い、燈夜はぐっと拳を握った。




