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消させない

“回収”されてから何日経っただろう。


(帰りたい)

蒸気車の中で思ったあの気持ちは、もう随分と薄れてしまっていた。

不可能だから。監視は強化されて、しつこく内通者と接触者の情報を聞き出そうとして来るその姿に、そう確信している。

この部屋の外で過ごした日常が今後も在るべき日々だ、なんて思わない。

あれはいつか流輝が言っていた“神様”が気まぐれに僕にくれた恩恵なんだ。

こうして_この部屋で、前のような生活に戻ったとしても。

与えられたあの日の記憶が、大切な宝物の日々が僕を生かしてくれる。

(消させない。)

強く誓った。

彼らが気にする適正値。調律環を外そうと試みた時はこの間は上限を超えた。あれは、向こうにその気さえあれば薬で鎮められてしまう。下限を狙うんだ。


「やり方がガキなんだよ!」

苛立った声と、大きな音。

意外だったのは、この人が誰より早く僕の意図を理解した事と、誰より必死に食べさせようとしてきた事だ。他の人はまだ燈夜達の存在を探ろうとしてくるけど、この人だけは早々に聞いてこなくなった。

それでも他からの追及は終わらない。

食べなくなってしばらくすると、空腹を感じることも無くなった。喉も渇かなくなった。

その代わりに身体がひどく重くて、力が入らなくなった。

“食べなきゃ元気、でないだろ?”

いつだったか、孤児院の子供に楼蘭さんが言っていた言葉を思い出した。

僕がこんな状態だと知ったら…楼蘭さんは僕を叱るだろうか。

ごめんなさい。

でも、嫌なんだ。

みんなで過ごしたあの日々が、“僕”だから。それが守られないなら、自分なんて要らない。

その気持ちが、食べ物を遠ざけた。

その意地が、点滴の針を抜き続けさせた。


寝ているのか、起きているのかもわからない。

ふわふわした意識の中で夢を見ていた。何の夢なのか、ぼんやりとしていたけど、誰かが優しい声で、たくさんの優しい言葉をかけてくれる、そんな夢。

「…可哀想に。」

温かい手が頬に触れる。

いつかの、あの人が心配そうに僕を見ていた。

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