断つ
F‐369はいくら聞いても内通者の存在を話さなかった。
ただ、「すみません」「わかりません」と、壊れた機械のように同じ答えしか返さず、
しかし『何か』を確実に守っていた。恐らくは内通者の存在だ。
このまま“処置”を行って全てを消してしまっても構わない。
だが369の中にあるその『何か』は、F‐369自身がフタを開けないことには完全に消しきれない。
そして内通者がまたいつ脱走を企むかもわからない。
厄介な状況に楊震らは頭を抱えていた。
圧を強めてF‐369に内通者の情報開示を迫る楊震や上層部。
そんな彼らに“これ以上探るな”と言わんばかりにF‐369は与えられる一切の食べ物を口にしなくなった。最初は気まぐれかと思われた。
だが一日、二日、三日と過ぎても、どれだけ促されても、口を固く閉ざしたまま何も受けつけない。
「おい。」
「………。」
「メシ。」
「………。」
トレイごと突き付けられる、温かい湯気にもF‐369は微塵の反応も見せない。
「これ以上探るなら俺は俺の意志で壊れるってか。やり方がガキなんだよ!」
乱暴にトレイを机に叩き付け、ドカッと椅子に腰掛ける嶺亜。湯気の上がる食器の隣には朝に出した食事が手もつけられずに冷めきっている。
嶺亜の座った椅子は数日前まではF‐369が座っていたものだ。彼は今、部屋の隅の床に座り壁を見つめている。
「嶺亜さ〜ん、ダメですよ、そんな大きな音を立てたり…」
「うるせぇ高科!」
騒がしい空気の中心で、F‐369だけが静かだった。
拒絶の色は濃く、ただ沈むように黙っている。
(…黙ってやり過ごすつもりか。こちらが折れるまで。)
ーーー
もう、食べ物を口にしなくなってから何日経過しただろう。
目に見えて衰弱し、ついに起き上がれなくなったF‐369は、調整槽室から出された。
それぞれの数値は適正値を下回り始め、医務室へと移されて点滴を施されたF‐369は、隙を狙ってはその針を外し続けた。
(埒が明かない…)
打つ手の見いだせない楊震が呼んだのは
「…可哀想に。」
織玖だった。




