知っていること
燈夜が宋安と共にこの場を離れ、少なからず心細さを感じる海陸。
「海陸くん?ちゃんと食べてるか?」
「はい。」
工房の職人の一人が話しかけてきた。突然何人も紹介された海陸は彼らの名前を正直覚えきれていない。歳は大分上だろうか?確か、娘が二人居ると話していた。
「悪いな、燈夜連れてっちまって。あいつのことだから秒で帰って来るわ。」
燈夜の腕は大人達にも信頼があるらしく、微塵も心配してない。
「楼蘭のトコに世話になってるんだって?」
「あー。だからこないだ楼蘭、燈夜の事話してたんな。どういう風の吹き回しかと思えば…」
あまり理解出来ずにそのまま耳を傾けると、どうも燈夜はそこまで頻繁に孤児院に顔を出していなかったらしい。
「あいつさ、親父さん亡くしてあの孤児院に居たんだよ。片親だったから。親父さん繋がりで知ってたし、俺等も気に掛けててさ。」
海陸の視線に気が付いたのか噛み砕いて説明をする職人達。海陸の知らない燈夜の姿だ。
「まぁ最初は暗い顔してたけど、その内ちゃんと友達が出来て、また笑うようになって…それがな。」
「その友達…一番仲良かった子じゃねぇかな?死んじまったんだよ。病気で。…悪くねぇってのに燈夜、自分を責めてよ。居心地悪くなったんだろうなァ。孤児院、出ちまってな。たまにすげぇ気難し〜い顔、するようになって。どうしたもんかーって思ってたんだ。」
「まだ整理が付いてないんさ。いきなりだったから。」
左右で交わされる、初めて知る燈夜の一面。話が聞こえてくる方に視線を流しながら、しっかりと拾う。
「その友達と約束してたんだろ?“海”を元通りにするって。でも忙しいか知らんが、前より工場に顔も出さなくなってたから…もしかするとその夢も諦めちまったかと心配してたんだが…あの顔は大丈夫そうだな。」
「……。」
海陸の中の燈夜はどちらかといえば大人びていて、奔放な流輝の手綱を引いてある時は律し、ある時は振り回されている。そんな印象だ。
何かに思い詰めて、自分の中に閉じこもる図は想像出来ない。
「俺等の工場に居る時はあいつ結構生意気小僧なんだぜ?整備部に居る時はスンとしやがって。」
「それはお前が甘やかすからだよ。」
「え?俺ぇ?…ま、何だかんだ可愛いからな。あいつもなー、こっち帰って来てくれたらな。」
大人達に言わせると燈夜はまだまだ若く、可愛げがあるようだ。それも、あまり見ない一面だ。
「燈夜と俺らの腕、それに整備部の技術も合わさったら蒸都も色々楽しくなるぜ?」
「それはあるな。海も干上がらせないし、もっと植物増やしたり、便利以外に暮らしに彩りは欲しいよな。君も思うだろ?あの味気ない海。手を加えるどころか止めやがって。動力庁舎は頭が硬い。」
「海は…生き物が住めたら楽しいと思います。」
「おーっ!いいね、そういうのそういうの!」
海陸の奥底に在る海や空の光景。
職人たちには実際に見た光景ではなく、創作ーー物語のような感覚で受け入れられていた。
(流輝だけじゃなくて…みんな知らない。)
住む場所が違えど海も空も共通だ。
海陸はそう思っていた。どうやらそうではないらしい。




