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そのもの

「口説いたとか言うから何かと思えば…名前の話しただけだろ?」

騒がしい流輝から事情を聞き出し、燈夜が呆れた声を出す。

「だってさ!綺麗な、その、ホシ?がぴったりって=私が綺麗ってことじゃん?口説き以外の何者でもないでしょ!あの無口だったミロクが人を口説くなんて…お姉ちゃん感動…っ」

感極まった様子でぬいぐるみのようにミロクを抱き締める流輝。ミロクはされるがままに流輝の腕に収まっている。

「そいつ、俺等と同じ歳くらいだろ。」

何かにつけてミロクに対して子供にするような扱いをする流輝。思わず指摘してしまう燈夜だが、出会った当初からのものでミロクに困惑はなさそうだ。

「あんたより数百倍ミロクのが可愛いけどねーっ」

「言ってろ。そうやって余計な一言を言うから上司に可愛げがないって言われるんだよ。」

思わぬ流れ弾を面倒くさそうに躱して出されたお茶を飲む。ミロクは流輝に髪を梳かされたり頰を触られたりされたい放題されている。

「…__?」

流輝のお喋りに掻き消されたミロクの言葉。燈夜は聞き取れずに眉を顰め、流輝は突然耳まで紅くした。

「ミロク、今なんて?言った?」

「流輝は可愛いよっ…て…」

「お姉ちゃーーん!ミロクがーー!!」

喚きながら脱兎のように去っていく流輝の後ろ姿を眺める二人。

「うるさ。…俺さ。あいつの名前の字、見て装飾灯を連想したんだよ。流輝も颯も字のまんまじゃんって思ってたけど、色んな解釈があるんだな。」

「颯?」

「ん?あー…昔居た、俺らの友達。」

自然と口から名前が出てしまうのは、まだ自身の中に颯が生きている証拠なのか、それとも颯の死を受け入れきれていないのか。

「もう何年も前に死んだよ。病気で。」

せめてその理由が前者であって欲しい、と包み隠さずミロクに明かす。

「颯の名前の字、さ。“サッと通り過ぎる風”みたいな意味もあるっぽくて。ホント、名前の通り走り抜けてったよ。」

燈夜にしては珍しく重い澱みのある眼。きっと、何か声を掛けた方が良いだろう。そう理解はするミロクだったが、適切な言葉はわからなかった。

「燈夜は?」

「え?」

「燈夜の字の意味。」

別の角度からの問いに燈夜の瞳に宿る澱みが薄れる。

「俺の字は…夜はそのまんまの意味。燈は明かり、とか光、って意味なんだってよ。」

「………。」

燈夜の答えにミロクが一瞬固まり、小さく笑った。

「燈夜も、そのまんまだ。」

“約束!しただろ?忘れたなんて言わせねぇからな!”

調整槽室という暗闇に現れた燈夜は、間違いなく燈火だった。


燈夜と流輝が帰り、少し静かになった部屋。

「やっぱあの子たち…まぁ殆ど流輝か。居ると賑やかだねぇ。」

連日燈夜か流輝、もしくは二人共が訪ねにくるのを楼蘭は嬉しく思っているようだ。

「さ、そろそろ夕飯だ。手伝ってくれるかい?_…?」

机の上に乱雑に置いてあった紙を片付けようと伸ばした楼蘭の手が止まった。

「なんだい?うみ、りく?」

一枚の裏紙に『海陸』と書いてある。恐らくは燈夜の字だ。

「ミロク。僕の字、だって。」

__お前はさ、海でも陸の果てでも、どこでも行けるんだ。

書きながらそう笑った燈夜。

「似合うじゃないか。」

楼蘭の言葉に、文字をなぞっていた海陸が顔を上げて微笑んだ。

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