変化
良くも悪くも変化のないミロクと同じように、いつも通り整備部に仕事が舞い降り、いつも通りその仕事をこなす。
蒸都も、変わらずきちんと動いている。
朝の蒸気は規定量。配管圧も許容範囲。動力炉の出力は、昨日と変わらない。
異常はない。数値は揃っている。何も問題がない。
(…何か…違う。)
工具越しに伝わる振動が、どこか鈍くて、わずかに重たい。誤差と言えばそれまでの違いだ。
少し前から気付いてはいた。
ただ、ミロクをあの部屋から連れ出して匿っているという、本来してはならない行為をしたという心の乱れが、違和感を覚えさせていたのだと思っていた。しかし、孤児院にミロクを任せ、少し安心を得た後もそれを感じ続けている。
「…古いから、か?」
独り言のように呟き、蒸気弁を締め直す。応答は正常。音も規定内。
ただ、弁を閉じたあとに残る余韻だけが、気持ち長い。
今そういう違和感を感じているのは自分だけなのだろうか。
誰も立ち止まらない。誰も、不思議に思わない。
休憩室から聞こえてくる声も、いつも通りだ。
「最近さ。朝の湯が出るの、遅いよな。」
「え?ウチはそんな事ないけど?」
短いやり取り。
結論はすぐ出る。
燈夜はその会話を横目で聞きながら、何故か胸の奥がざらつくのを感じていた。
老朽化。
理由としては正しい。
(本当に、それだけか?)
そんな燈夜を試すように時計塔の鐘が鳴った。音が少しだけ遅れた気がする。気の所為かもしれない。
蒸都は止まっていないし、壊れてもいないから。
今日も変わらず、人を運び、蒸気を吐き、動き続けている。そう理解しているのに、歯車の森からわずかに外れているような、何かが綻んでいる感覚が消えない。
燈夜は工具を片付けながら理由もなく手を止めた。
「余計な事考える余裕、無いだろ。」
言い聞かせる。
ただでさえミロクという爆弾を抱えている。もし何か起こったとして、思考はクリアであった方が良い。他事に気を取られない方が良い。輪郭の定まらない違和感を押し込めて蓋をした。




