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空白の捜索

統括部・臨時対応室。


F‐369が調整槽室から姿を消して二日が経った。部屋の空気は重く、蒸気管の低い唸りと、地図盤を操作する音が絶え間なく続いていた。

「水路第三分岐、異常なし。」

「第四区画、遺留物なし。」

「……調律環の反応は?」

報告が重なり合う中、楊震は無言で盤面を見つめていた。


壁一面に投影されたのは、蒸都全域の水路図と、下層区画の詳細な構造。

発見されたのは、ただ一つ。破壊された調律環。



残留信号を頼りに排水路の底から引き上げられたそれは、外部から強い力を加えられた痕跡を残し、殆ど全ての機能を失っていた。

「……自発的破棄、という線は?」

「十分にあり得ます。落水時の衝撃だけでは説明がつかない損傷です。」

「F‐369が自ら外し、捨てた……か。」

楊震は静かに息を吐く。


(逃走経路としては合理的だ。あの日の雨なら水音で気配は消える。足取りも全て水に流され追跡も困難。…生きていれば、だが_)

「水路浚渫班、範囲を拡大。下流も含めて再確認しろ。」

「了解。」


“死亡の可能性”は、排除できない。だが、即断するには材料が足りなかった。

「……郊外第三基幹装置、再度報告です。」

別の方から声が飛んできた。

「出力が安定しません。調整後も誤差が残っています。」


楊震の視線が、わずかに上がった。

「……。」

「老朽化では?」

「いえ。数値の落ち方が……説明しづらいのですが、“欠けている”ような…」

一瞬、室内の空気が止まる。

(…影響が、すでに出ている、か。)

即座に判断を下す。

「郊外設備の点検を再優先。F‐369が生存している可能性を前提に動け。」

「生存の場合、回収ですか。」

「そうだ。生きていれば回収。死亡していれば…代替が必要となる。」


沈黙。だが全員が同じことを考えている。


「……しかし、ここまで痕跡が無いのは不自然ですね。」

「単独行動では限界があるはずです。」

「内通者の線は?」

その問いに、楊震は一瞬だけ沈黙した。

「…否定はしない。だが現時点では裏付けがない。存在の不確かな内通者より、F‐369の捜索が最優先だ。」

適合者__F‐369は“機構”だ。自ら、人の生活圏に身を潜める理由がない。


その前提を、誰も疑わなかった。

「捜索を続行する。水路、下層区画、郊外設備――蒸都の外縁から潰していけ。」

命令が下り、再び動き出す盤面。

蒸都はじわじわと歪み始めていた。

だが、その中心に居るはずの存在だけ、どこにも映らない。

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