ミロク
物音で気付いたのか、燈夜が家に帰ってしばらくすると流輝が起きてきた。
「おっそい!どうせあの美人主任さんの“お願い!”を断れなかったんでしょ?」
「…仕方ないだろ。」
郊外の基幹装置にエラーが出て壱組が奔走しており、とても定時に帰れる空気ではなかった。
流輝の存在に感謝しながら、参組の仲間と共に応援に向かった。
(実際、化石みたいな装置だったしな。)
辺鄙な場所にある、メンテナンスの行き届かない基幹装置。手を付ければすぐに復旧はしたものの、まだ続きそうな予感がする。
「ま、流輝さまに感謝することね。安心して仕事出来たでしょ?」
「感謝してるって。ホント。」
片付けをしながらカバンから出した紙袋を流輝に渡す。怪訝な顔をして、受け取った流輝だったが、一瞬にして目を輝かせた。
「うそ!狙ってたパン屋さんじゃん!覚えててくれたの?!やるじゃん!」
「あんなずっと言ってたら嫌でも覚え…_」
「ミロク!起きてミロク!一緒に食べよ!」
燈夜の言葉も聞かずに部屋を出ていく流輝。
(ミロク?)
流輝が向かった先はベッドで眠るF‐369の元だった。
「何だよ、ミロクって。」
「え?だってずっと“F‐369”って名乗らせるのも変でしょ?聞いてもそれ以外知らないみたいだし。3と6と9だからミロク。もう本人もわかってるから大丈夫!」
「わかってるって…」
どうやら、燈夜の留守中に流輝が仕込んだらしい。流輝の中ではもうすっかり定着している。
「何よ、そんな疑うなら呼んでみたら良いじゃない。あ、起きた?」
ごそりと音を立てて起き上がるF‐369。ぼんやりと視線が宙を泳いでいる。
「…ミロク。」
「……。」
返事こそしなかった。
しかし、宙を泳いでいた視線は、名前を呼んだ燈夜をしっかりと捉えた。
ーーー
一通り夕飯代わりに燈夜の買ってきたパンやスープを広げる。
「まさかあの辺境の地のパンを食べれるなんて…たまにはあんたのお願いも聞いとくもんね!」
思わぬ手土産に流輝は機嫌が良い。
「辺境って言ってもそこまで遠くないだろ。」
「食べたことも無いパンのために行く距離じゃないの!時間掛けて行って不味かったら馬鹿みたいでしょ?…でもこれなら行く価値アリ…!」
満足気にパンを頬張る流輝に対してミロクは食があまり進んでいない。一口が小さくて咀嚼して飲み込むまでが遅い。
「腹、減ってなかったか?」
尋ねる燈夜に流輝がもごもごと首を振る。
「違う違う、朝昼兼用で一緒に食べたんだけどさ、この子むっっちゃくちゃ食べるの遅いの。もう虫みたいなんだから。」
「流輝。嫌な例えすんなよ。」
「え?あんたこそ虫を嫌な例えに分類するのやめなさいよね。」
二人のする会話の内容を理解しているのかいないのか、無表情のまま、目の前の行動を眺めていた。




